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先ず言葉の意味を確認しておこう。日本語で華北と河北は発音が同じで紛らわしいが、華北とは中国北部を意味し概ね淮河以北を指し河南も含む。河北とは黄河の北を意味し華北より地域は狭い。同様に河南は黄河の南を指す。
今回上海から足を伸ばした山東省も華北の一部をなし各都市は日本近代史と密接につながっている。威海は日清戦争の海戦場、煙台は日露戦争当時芝罘(チーフー)と呼ばれ日露情報戦の舞台となったところ。青島は第一次大戦当時日本軍がここのドイツ要塞を攻撃し陥落させた。その捕虜を収容した場所が徳島の阪東。捕虜収容所の松江中佐を主人公として映画化された(バルトの楽園)。済南は蒋介石の統一戦争(北伐)を阻止するため田中義一内閣が出兵した済南事変でそれぞれ日本近代史でも馴染みのある地名だ。
ここでお伝えしたいのは移動中見た農地、山林、河川の情況だ。聞きしに勝る干ばつのひどさだ。緑をほとんど見かけなかった。農地には作物が何もなく(この時期米作はないが小麦がなければならない)河川は干上がっていた。
山東省は古代魯の国。黄河流域に当たり中国では最も古くから文明が栄えた地域だが今では荒涼たる大地だ。禿げ山がほとんどで樹木は見あたらない。日本では見かけない荒んだ風景が果てしなく広がっている。緑したたり、清流が流れる日本の山河が懐かしくなる。
(雨が降らないから砂漠化するのではない。人為により緑がなくなると雲ができず、雨が降らなくなるとの説を確信する。日本でも中国の砂漠緑化に協力している人達が相当数いる。遺憾ながら彼らの努力が報われる可能性は低い)
何日も雨が降っていないので空気が埃っぽく、視界が悪い。自動車による大気汚染や黄砂の影響、それにこの時期華北では暖房に主として石炭を使うことによるかもしれない。日本人は中国の経済発展を羨んでいるが、私はこんな環境で生活する人々が気の毒になった。こんなこともあろうかと日本からマスクをもって来たのはよかった。
中国人が日本の豊富な水資源をほしがるのもよくわかる。中国の経済成長を規制する要因は水であるとの確信を強めた。
済南は黄河の南河畔にできた町で山東省の省都。7年前に同じ場所から黄河を見たが、あの時より水量はやや減っていると感じた。中国文明の母なる大河はいつまであるのだろう。次いで黄河の伏流水である趵突泉の現状も気になる。ここは7年前同様こんこんと湧いていた。この泉が尽きる時は黄河が尽きる時だろう。
上海への帰途泰山へ。泰山は最も高い峰である玉皇頂が1545mとさほど高くない。それなのに中国随一の名山とされているのには理由がある。孤高の富士山と違って泰山はいくつかの峰が連なり、その配置が絶妙で、えも言われぬ奇観を作っている。そうした自然条件に加えて政治的に聖なる山とされ古代帝王が封禅の儀を執り行ったところでもある。封禅の儀とは帝王が位に就いたことを天に知らせ、天下泰平を感謝する儀式。秦の始皇帝、漢の武帝、唐の玄宗(楊貴妃との悲恋は有名)もここに登っている。生地曲阜がここから近い孔子も登ったことがある。
現代中国で古い建造物はほとんど残っていない。北京の故宮も、万里の長城も造られたのは明代でさほど古いものではない。だが泰山は古代から変わらぬ山容を留めている。私達も始皇帝、漢の武帝、孔子が見たのと同じ山脈を見ることができる。
今は中腹までバスがあり、そこからケーブルカーで山頂付近まで行くことができる。今回ケーブルカーを利用した当方が言うのも何だが、聖なる山にケーブルカーを作ることに反対論はなかったのだろうか。もっともこのおかげで今は老若男女だれでも容易に行ける。これを使えば往復4~5時間の旅程だ。もちろん整備された石段の登山道もある。
残念だったのが、空気が霞み、遠くまで見通せなかったこと。時間があれば山頂のホテルに泊まり翌朝の日の出を拝むのがお勧め。
なお諺「泰山鳴動して鼠一匹」は本来「大山鳴動して鼠一匹」と言うべきで泰山とは関係がない。
曲阜は泰山から上海への帰途に当たるので途中下車する手もあったが、孔子の生家が残っているわけでもないので今度は止めた。
26日夕刻帰国。地下鉄2号線が浦東空港まで繋がったので市内中心部から5~7元で行ける。50元も取られるリニアモーターカーの利用者はさぞ減ったことだろう。
地下鉄2号線を浦東空港まで延ばすのであれば何で莫大な金をかけてリニアモーターカーなど造ったのだろう? 大国としての見栄か。
今回の旅行で今や中国で海賊版ソフトウェアやDVDは公然とは売られていないことが分かった。当てが外れたが中国もグローバルスタンダードに近づいたと慶賀すべきかもしれない。
帰国当日の26日上海市の中心部人民広場で民主化を求める小集会があり、警察といざこざがあったことを帰国後知った。その時間人民広場は地下鉄で素通りしただけなので全く分からなかった。当然ながらこうしたニュースを中国のメディアは一切報道しない。
(ジャーナリスト 青木 亮)
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