トップページ ≫ 未分類 ≫ 現代の孤独死~Yさんの突然の死から~
未分類
Yさんが忽然と世を去った。65歳。心筋梗塞という突然死だった。しかし死は、言ってみれば皆突然にやってくる。Yさんの死もあっという間でついに帰らぬ人となった。
Yさんは上級職の公務員で順調な出世の道を途中までは登っていった。仲間も雲の如くたくさんいて、いつもYさんはその中心的存在だった。オヤジギャグを連発して皆が冷めていても一人でうけに入っていた。とにかく温かく優しい人だった。そして社会の不正にはとくに厳しく、よく義憤を感じては酒をあおっていた。頭の回転も速く勘も良かった。そして際立って明るかった。だが、その明るさには時々例えようのない影が浮いたり沈んだりしていた。晩秋の陽射しに自分以上の影がいつも背中から追いかけてくるように何かしんしんとした深い悲しみがあったような気がする。よく人は、その人の作った影のほうが実在の自分よりも、より本当の自分であることに気づくことがあるが、Yさんの場合は特にそんな気がした。明るくみんなに囲まれていたけれどなぜか孤独だった。冬木立の下をYさんが古いコートの襟を立てながらうつむきかげんに歩いていた姿を時々見かけたが、男の哀愁のようなものが深く漂っていた。Yさんは妻君がいても二人という独りを噛み締めていたのかもしれない。亡くなった坂本九が歌っていた「独りぼっちの二人」という歌が、今から考えればYさんのことに当てはまるような気がしてならない。
中年になって彼は出世の道から外れた。寂しさの極みのなかで彼は人を恋した。そして恋の道一筋に走った彼は、今までがあまりにも順調な道を歩んできたゆえに、恋のもつ残酷さを知らなかった。そして彼は見果てぬ恋路を登りつめようとして滑った。そして深く墜ちた。
出世の道を閉ざされ栄光を失い失恋の痛手まで背負った彼は、激しいストレスの中で酔いどれ天使のように酒びたりの日々を送った。一人一人友も去った。そして今度は賭け事にはまった。そんな賭け事の中での突然の死だった。今、孤独死という死の形態が大きく社会問題となっているが、独りぼっちで生きて独りぼっちで死んでいく事だけが孤独死ではない。Yさんのように家族がいながらも言い知れぬ孤独感を感じしめながら忽然として独りこの世を去っていくのも、現代という不毛の砂漠の中で世を去っていくのも、孤独死と呼んで何の不思議もないはずだ。
バックナンバー
新着ニュース
- エルメスの跡地はグッチ(2024年11月20日)
- 第31回さいたま太鼓エキスパート2024(2024年11月03日)
- 秋刀魚苦いかしょっぱいか(2024年11月08日)
- 突然の閉店に驚きの声 スイートバジル(2024年11月19日)
- すぐに遂落した玉木さんの質(2024年11月14日)
特別企画PR