文芸広場
俳句・詩・小説・エッセイ等あなたの想いや作品をお寄せください。
俺はこの二人を見続けて10年になる。
俺はこの二人の親戚でもなければ友人でもない。
ではどんな関係かって。
まぁそれはのちのち話すとしよう。
男は中村、女は亜紀。年の差は30くらいだろうか。
これは俺の憶測でしかない。
わかることは、中村が亜紀を愛しているということ。そして俺の恋敵ということだけだ。
俺と亜紀の出会いは、亜紀がういういしい女子大生だった頃だ。
可憐な女神のようなあどけないその微笑みに恋の芽が芽ぶき、俺は一瞬で彼女に夢中になった。
今はそのういういしさのカケラのひとつもなくなり、男を狂わす色香漂う女になったものだ。でも美しさだけは今も昔も変わらない。
いや美しさがよりいっそう俺を眩惑させる。
そしてもう一つ変わらないのは、ひと時足りとも、彼女から目が離せない俺がいる。
そうなると中村に対する嫉妬心の炎が昔から芽生えてはいたが、ここ最近特にその炎が激しくメラメラと荒れ狂う。夜空にあがる夏の花火のように大きなものだ。花火だったら終わるからいい。俺の炎は台風さえ消し去ることができない赤々と立ちのぼるものだから始末に置けない。
今日も亜紀は俺に濃艶なその笑みを魅せつけ、俺の心を奪い俺を狂わせる。
そして俺は亜紀という海に沈みそうになる。
俺のこの心がわかっているのかと想うくらいの熱い眼差しを妖艶に放つ。
こいつも俺に惚れてるな。それともこいつは俺を恋の魔法にかける魔女なのか。自己満足とともに自分を暗示にかける。
亜紀の麗しき笑みのボルデージが最高潮となると同時に俺の興奮も収まらず、思わず理性というものを失いそうになった。
俺のなかの理性の秒針が動きだす。
そんな時、お構いなしに中村は俺に話しかけた。
忘れかけていたその存在があらためて俺の視野に入る。
この中村にだけは俺の気持ちを悟られてはいけない。
必死に理性を取り戻した。
亜紀の柔らかな甘い声が再び俺に囁く。
俺は亜紀の囁きに誠心誠意の愛情を注ぎ、亜紀に応える。
亜紀はその俺の愛にその口元でそっと応えてくれる。その唇で。
俺は欲をかかない。
なぜなら俺たちの三角関係を長く続けるためだ。
中村に悟られないように俺たちの関係を保つため。
俺のものにしない、俺のものにできない、亜紀への気持ちを俺の選んだ愛の形で亜紀に伝える。それだけで俺は満足だ。
俺はこの手で亜紀を抱きしめることさえできないのだから・・・。
そう俺はシャリしか握れないただの男でしかないのさ。
そして俺の哀しき、恋という名の航海が終わることはないだろう。
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