文芸広場
俳句・詩・小説・エッセイ等あなたの想いや作品をお寄せください。
私が実母を介護しはじめてから、三回目の桜が満開になった。
要介護2から3へは半年という早さだ。
お嬢様学校に通い大映のニューフェイスを受けたり、
英会話を駆使した美容室を経営したり、
とにかく華やかな母が認知することができなくなる病を発症するとは戸惑うばかりだ。
実の親を介護する娘が書いたものやテレビをみると
献身的な姿ばかりで、イラつく私は鬼だろうかと落ち込む日々が続いた。
そういったとき、デイサービスのヘルパーさんが、「私は結構手厳しいですよ。娘が母を介護するということは激しいやりとりになってしまうのは仕方ないのです。私がそうですから」ときっぱり話してくれた。
そのヘルパーさんは、顔をあわせるたび、「みんなでお嬢さん応援してますから」とウソのない親身な言葉をかけてくれた。
母にしっかりしてほしくて、つい声を荒げてしまったあとにどうしようもない自己嫌悪に陥ったときにあのヘルパーさんの慈愛に満ちた表情を思い出し、立ち直ることができた。
私はあのヘルパーさんがいればきっと、乗り越えていける、この生活がずっと続けば大丈夫と安心しきっていた。
しかし、先週ヘルパーさんが「定年なんです。そして、縁あって専門学校の講師をこれからつとめます。お世話になりました」と別れの挨拶。
青天の霹靂で私の気持ちは谷底へと落ちそうになったが、彼女の晴れやかな笑顔を見てすべて吹き飛んだ。
なんと前向きで素敵な女性なんだろう。これから介護の道に進む人々にとって
彼女の講義はどんなに素晴らしいものか。。。
と、同時に定年を指折り待ち焦がれている57歳を過ぎたくたびれ中年男達にこの彼女の「心意気」を知らしめたいと思った。
(ここで私の日常の母との葛藤など些事に思えて、脳裏から消えていた)
私も彼女を見習って、生涯現役。社会に貢献する人間になろうとあらためて力をもらった。
辛いこと、悲しいこと、苦しいことがあることが人生だ。「充実感」が感じられる「一日」があることが大切なんだ。と思う旅立ちの春の日である。
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