文芸広場
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暑き夏が始まり、梅雨の終わりとともに音もなく消えた男がいた。
男が消えた夏は例年に比べ暑かった。
この時期の雨こそ少なかったが、梅雨あけにはゲリラ豪雨が続き、東京の夏の風物詩である隅田川花火大会が開催間際中止になったほどだ。
その頃の男は自分の輝く場所をみつけたかのように、その大空という舞台で花火のように舞っていた。だれもがその花火に魅了された。
灼熱の太陽が眩しく誰もが息苦しい日だった。
男からの突然の手紙が届いた。
消印は鎌倉。
男からの手紙には別れが記されていた。
男は息苦しさからの逃げだったのか、安息をもとめてどこか、海に辿りついたのか。
男の安息の地は癒しの女だったのか、その頃は誰もが知る由もなかった。
また今年もうっとうしい梅雨を迎えた。
そしてまたうっとうしさの真逆のあの爽やかな笑顔を思い出していた。
心はとっくに整理されていた。
男はもう過去の人だった。
そうだれもが思っていた日々、その男は突然帰ってきた。
男はすべてを失くしていた。
憔悴しきった男の姿を想像していたが、すべてを失くした男は以前と変わらぬ笑顔だけは失っていなかった。
いや、一層の笑顔と強さを引っ提げていた。
失くすものがない人間こそ強くなれるものだ。
今年の夏、またあの花火が変わらぬ夜空で舞い踊るはずだ。
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