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コラム …男の珈琲タイム
駅の近くに「デッケーギョウザを食わせる店がある。あれを五皿食える奴はいない。」と上野の土屋がいった。魚津の邦さん「俺はビールがあればギョウザの五皿、六皿はかるい。」それじゃ、とりあえず行ってみよう。と即座にきまる。どうも此の連中と一緒だと「ノム」ことに関する限り意見の一致をみるのに時間を要さない。
まだ内幸町の中日新聞を出てから百歩と歩いていない。メンバーは俺を入れて三人。日比谷通りを横断、新橋に向かって四、五分歩いてから右折。四、五十米行った右側に目指す中華屋さんがあった。これはいつも入るラーメン屋とは大分、様子が違う。中に入るとテーブルには白のカバーまでかけてあり、本格的。ここでビールと「ギョウザ」だけの注文となると一寸気がひける。だがもう後にはひけない。ビール三本ギョウザ三つ。・・・
各々手酌で勝手にビールをのみ始める。しばらくすると問題の「ギョウザ」が出てきた。たしかにこれはデカイ。それは今迄見たことのない巨大なもので普通の三倍以上あろうか。それが楕円形の白い皿に頭とオッポをはみ出し五本も鎮座している。正に壮観!
さすがの邦さんも一瞬「ドキッ」としている筈なのに顔にはださない。彼も強情な奴だ。あっさり「シャッポ」をぬげば良いものを。確かに「ギョウザ」は食っているのだが、何食わぬ涼しい顔でビールとギョウザを交互に口に運んでいる。俺と土屋は腹のはってしまうビールからとっくに老酒にきりかえ一皿の「ギョウザ」をもてあましぎみなのに。彼はことのなりゆきで意地でもビールをのみ、ギョウザを食いつづけなければならない破目になった。それでも二皿目位までは余裕があり彼らしい登山談義もでていたが、流石三皿目になると一寸調子が変わってきた。彼の腹にはすでにビール五、六本とギョウザ二皿は間違いなく入っている。変わらない方がおかしい。それでもやっと三皿が終わり、四皿目が出てきたとたん彼が突然「ブェー」と妙な呻き声を出してテーブル横の床に突伏した。ゲーゲーゲーやる内に今迄、のみ食いしたビールとギョウザの入り交ったのが大量に床に広がってしまった。俺は少し同情して背中を叩いたりさすったりしているのだが、土屋は勝ち誇ったようにニヤニヤしているだけ。
邦さんはもうギョウザの顔も見たくなかったのであろう。お気の毒なことだ。そうこうしているうちにお店の人がきてテーブルのまわりを全部片づけてくれた。何と間のわるいことか。思わぬ醜態に俺は唯々あやまるばかり、早々に勘定をすませ、邦さんを両脇から抱えるようにして店を出る。遭難は思わぬ所でおこすものだ。タクシーを拾って上野へ。駅前で明日仕事だと云う土屋を下しタクシーはそのまま駒込方面に向かってもらう。
当時邦さんが居候をしていた千駄木町の叔母さんの家に着いたのが十時過ぎだったろうか。できるだけ音を立てないように彼の部屋に入り水だけ飲んで、二人共倒れるように寝てしまった。翌日目が覚めたのが丁度昼頃、邦さんは出すものをすべて出してしまったせいか今日は以外と爽やかな顔をしている。かえって俺の方が二日酔い気味だ。お互いに向き合って座り頭をたれたまま居眠りをしているのか黙想をしているのか、無言の刻が一時間も続く。ふと気が付いたように邦さんが喋りだした。「大野さん、昨日の店に付き合ってくれないか。」どうやら昨夜の詫びに行くつもりらしい。俺にも少しは責任がある。「いいよ」と答えた。外に出る。
四、五日前、関東を襲った台風の置き土産か、今日の東京の空はぬける程蒼い。汚染されていた空気が一掃され二日酔いもどっかへ飛んでしまう程爽やか気分。相談もしないのに足は自然に不忍池方面に向いていた。池の端をブラブラ歩き、上野駅・山下口に着いたのが午后四時頃。駅前の店でお詫びの菓子折りを求め山手線に乗り込む。新橋駅下車後は途中、寄り道することなく昨日の中華料理店に赴き、早速、邦さんが御詫びの口上をのべる。昨夜は大変ご迷惑をおかけ致し、面目次第もありません。平に容赦ねがいます。誠に申し訳御座居ませんでした。
一寸、慇懃過ぎるきらいがあると思ったが、俺もそれに習って、深々と頭を下げた。店長らしき人が出てきて「わざわざ御丁寧に」と云ってくれた。帰りしな、お詫びの菓子折りを渡すのを忘れていた事を彼に促しただけでお詫びの儀は無事終了した。
帰りの電車は当然上野廻り池袋方面行きが「ノーマルルート」だが今夜に限りそれはあまりにも危険だ。上野下車、土屋を呼んで反省会になる確率が非常に高い。俺はあえて遠回りの品川経由池袋行きに乗ることにした。
(大野 明)
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