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コラム …男の珈琲タイム
人生は愛と友情と裏切りだそうだ。太宰治は「大人とは裏切られた青年の姿をいう」とまで書いた。宮沢賢治の力作「銀河鉄道」が書かれた動機も賢治が誰よりも信じていた親友からの裏切りだったという。
アメリカで最も霧の深い都市といえばサンフランシスコだと思うが、昔、このサンフランシスコを舞台とした政治劇が映画化されてかなりの評価をえた。
市長、そして側近中の側近、秘書の愛憎と裏切りのストーリーは人間とはかくも醜悪なる生きものかということをまざまざと見せつけられ、心の中に傷痕を残させた。
地位のためや金のためでなく、人は人を裏切っていくものなのだろうか。ちょっとした感情のもつれや、考え方の相違を理性で訴えることもなく、石ころがゴロゴロと憎しみの海底へ沈んでいくような感情をどうすることもできず、愛も友情も絆も切り裂いていく。そんなにまでして人は人を裏切り落し入れていかねば、自己のアイデンティティの確立をはかれないものなのだろうか。
名優アルパチーノの演ずる市長は自信の魂のような男だが、権力の罠に自らはまってしまう。罠とは、自己過信だ。自分の権力が確かとしてある以上、部下は絶対に自分を裏切らない。まして、すべての秘密を共有し、待遇も充分満足させているのだから・・・・・まさしく過信が生んだ権力の罠だ。秘書は最初のうちはこの市長ほど頭が切れ能力と才能にあふれた男はいないと惚れこんでいたが、市長と深い関係にあった女の囁きに知らぬまにのって、面従腹背の輩となった。
市長不在の時は、秘書が市長の部下達に市長のプライベートな出来事をあたかも事実かのように粉飾して語り、部下達を洗脳した。市長は、そんな事実をまったく知らず、政敵とのあり方を一部始終その秘書と打ち合わせ、結局は敵方の戦術にはまり、落選の憂き目にあい、次はその秘書が平然として市長の弔い合戦と銘うって戦い市長の座を射とめるというものだった。
私はつい最近、松本清張賞に輝いた「月下上海」を読み終えたばかりだった。第二次世界大戦の最中、上海でくりひろげられる男と女の愛憎、政治的野望とスパイの暗躍。権力と非常等々、なかなかスリリングな小説だったが、後味は良かった。登場人物達が、みなどこかぬけていて、暗い深海魚をおもわせる人達がほとんどなく、それなりの使命の全うのために自分の生命をかけているからだろうか。それだけに、つい脳裡をかすめたサンフランシスコの深い霧の街で演じられた市長と側近のドラマは暗澹たるものを彷彿させて心が重かった。
参議院選はまもなく終りを告げる。リーダーと秘書、リーダーと側近の愛憎劇のはじまりでもあるのかと思うと、酷暑の二文字が何故か人間の業のようなものを暗示しているような気がしてならない。
(鹿島修太)
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