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コラム …男の珈琲タイム
往年の名ジャズシンガー〝ナッキンコール〟が枯葉を唄った時、私は日本の詩人達が晩秋を書きつづったどの詩よりも深い哀愁をおぼえた。というより人生の哀感を覚えたことはなかった。
そんな枯葉の季節を味わっている時、私宛に一通の手紙が届いた。純白の封筒に墨のように黒いインクで私の宛名が書かれ、裏には几帳面な字で国崎千恵子とか書れていた。少なくとも私は胸のときめきを抑えることはできなかった。あの青春の日、恋文という何んともいえぬ甘ずっぱい文をひろげた時の感動を私は再び私の心の中に呼びさましていた。「私は、あなた様をまだ知りません。お会いしたこともありません。しかし、あなた様のくださったお手紙にしるされた文字を見て、あなた様の御人柄を彷彿して浮かべてります・ ・ ・ ・ ・ どうか高い志と使命感をもって一歩でもこの社会を前進させて下さい。私はもうじき齢90歳を迎えようとしております。しかし、私は俳句の道を生命つきるまで全うしてまいります。あなた様にお会いできないのが残念でなりません・ ・ ・ ・ ・」
私は昔そのままの木の家の縁側に、ゆったりとした椅子に気品にあふれた老身を委ねながら、落ちていく枯葉の一枚一枚を深い思いでみつめながら、自らのノートに句をしたためているその人を想い、さぞかし美しかったであろう若き日の姿を浮かべ、心に満ちてくる悲しみに似た感動のようなものをおさえることが難しかった。〝別れきて 枯葉まいちる 木戸くぐる〟その人の句集にはそんな俳句も書かれていた。艶かしさと枯葉の愁い。私も一瞬、詩人となった。裏を見せ、表を見せ散り落ちて、やがて土に還っていく枯葉に人の世のせつなさをかみしめた。
(鹿島 修太)
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