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コラム …男の珈琲タイム
寿司屋のカウンターに座ると何とも言えぬ気分になるのは何故だろう。
ふうっと何かが身体の中から抜けていって、安心感と充実感が身体の中に逆流してきて幸せな気分に浸る。安倍さんやオバマさんはどんな気分だったのだろうか。おそらく、私のような安心感や幸福感はまったく無かったにちがいない。まあ、そんなことはどうでもよい。立場も住む世界もちがうのだからあたりまえだ。
私はその日、オバマさんも安倍さんも来ない、さいたま市の古い寿司屋のカウンターで久しぶりに日本酒を味わっていた。旬のカツオが旨い!しかし、その日の私は、つまみよりもシャリの締まった寿司の握りをほうばった。
隣に座った客がしゃべりだした。
「あいつもさ、遂にいっちまったんだよ」。
「えっ!別れた、あの奥さん?」寿司屋の親方が驚いたように聞き返した。
「うん…そうよ・・・・あいつと別れたのは、俺が浮気したんでも、何でもない。ケンカもしたことなんかないのにさ、あいつが急に別れたいっていうもんでさ、もう四十年も一緒にいたから賞味期限も切れたな。なあんて、思って遂にグッバイしたけれどねえ。別れちまったら、独りで寂しくってさ・・・
でもさ、そのうち、女房のやろう病気になってまって、何だかんだするうちに、俺が看病することになっちまって、そうだねえ、一年ぐらいみてやったのよ・・・・・」
「へえ、だんなって優しいんだね」と親方。
「なに、情っていうもんよ。疲れちまったよ・・・・・そうだなあ・・・高校の時から仲良くしてたから、かれこれ五十年。いやいや六十年だなあ・・・・」客は感慨深げにつぶやいて、
「なあ、親方、やつが逝っちまって丁度一ヶ月過ぎちまったから、もういいやな酒飲んで・・・・・」
私は黙々として飲んでいたが、内心穏やかではなかった。自分の人生を重ねながら心が重くなって行った。男と女。夫と妻。結婚。離婚。人生。言葉がくるくる私の脳裡をまわっていた。私はひたすら沈黙に耐えながら、まるで、人ごとのような素振りをしていた。遠雷がかすかに聞こえてきた。私はたまらなくなって席をたった。すでに、散り落ちて、病葉のように見る影もないすでに桜の落花を踏みしめながら、私は住み慣れた栖家に向かった。甘酸っぱい初夏の香りがツ―ンと鼻をついた。
(鹿島 修太)
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