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コラム …男の珈琲タイム
それこそ7年ぶりになるだろうか。
私は国会に出向いた。国会といっても、ある国会の議員会館だ。数年前に建て替えたばかりの会館はおもわず目を見張るほどの偉容を誇っていて、私を圧迫した。国権の最高機関たる国会。そこで国家のために奔走する議員の事務所となれば、ある緊張感は正常なものだと、自分に言い聞かせたりもした。
一方では”田舎者になったな”という卑下もあった。それはさておき、昭和からの永田町はその威厳と同時に血なまぐさい凄惨な負の歴史を刻みこんできた。
私はふと幻を見た。いかめしい軍服に身をつつみ冷たく、重い銃口をこちらにむけながら身構えている兵の列。あれは雪の降りしきる日、反乱軍となった2・26の兵なのだろうか。私はしばし、ぼうぜんとして錯覚の海の中に身をおいていた。しばらくして現実に返った私だったが、すぐさま一人の男の人生がよみがえってきた。20代にして国会議員の栄冠を手にした彼はあの源氏と平家の一の谷の戦いにおける義経のようにこの永田町の坂をかけのぼり、かけくだった。ひよどりおとしの若武者という形容がピッタリの彼だったが、あまりにも背伸びしつづけた人生はそのまま波乱万丈、落日の道を下った。
必ず天下の権をにぎろうとしたその手は冷たい手錠の中にはめこまれた。一時は大臣までのぼりつめた彼を待ちうけたところは固い鉄の格子に囲まれた独房だった。諸行は無常だ。栄枯盛哀は世の常だ。
彼のふみしめてきた赤いジュ―タンはどんな意味があったのだろうか。
目の前にある国会議事堂の威容は幾多の政治家たちの栄光と挫折。歓喜と悲哀をつつみこんで、権力という危うい麻酔の恐ろしさとこっけいさを静かに歴史のかなたに葬りながら、重い鉛のような冬空に80年という星霜に耐えていた。
(鹿島修太)
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