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コラム …男の珈琲タイム
丁度五十年前の五月五日。私ははじめて県北の雄都、熊谷市に足を踏み入れた。小学六年生の時だった。今日の日と同じように空は晴れて青空を赤い大きな鯉が泳いでいた。
埼玉県赤十字社の催し物ものに青少年を祝う会があって、それが毎年五月五日の子供の日にあてられていて、私はまだ見ぬ未知のまち、熊谷に胸をときめかしていた。一つの学校、一人の参加だから人間に対する好奇心もあふれていた。五家宝という耳なれぬ不思議な和菓子をはじめて口にした。となりの群馬県の五箇村が語源らしいと先生が教えてくれた。熊谷という地名は遠い昔、平安時代末期から鎌倉時代にかけて名を馳せた反骨の武将、熊谷直実が治めていたので、この名となったと役所の人が説明してくれた。さらにこの地は真夏になると猛烈に暑くなることでも有名だとも付け加えた。
子供の日にしてはかなり深い歴史や地理を知った。帰りの車中、私は何か子供にさよならをしている私自身を感じていた。
五月の空の青を泳ぐ鯉も子供の日の象徴ではなくなっていた。一句が浮かんだ。
「子の夢と親の見栄との鯉のぼり」。
我ながら満足を覚えた。家につくと遊びにきていた叔父が突然言った。「三郎、今日からニンニクを喰えよ」叔父は意地悪そうに笑って、「このニンニクを食べられたら、大人への第一歩だ」。すったニンニクをカツオの刺身につけ、目をつぶって生まれてはじめての冒険をしたかのように舌にのせ、そして喰った。〝う~ん〟と思わずうなるほどのうまさだった。
「叔父さん、うまいよ!」といいながら、一人前のニンニクとカツオをペロリと食べた。「今日から大人か!」父と母と叔父が手をたたいて笑いこけた。
その年から、五月五日がくると、いつも私は私の大人の日と銘うって句を読んできた。
「吾もまた 旬であるべし 初ガツオ」。
あの熊谷の日から五十年。私はニンニクのような歳月を刻んできた。かなり強烈な日々を生き続けててる。
私はもうその日々からは逃げることはできない。あたかもあの鯉がどんなに強風にさらされてものがれることができないように。
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