トップページ ≫ 教育クリエイター 秋田洋和論集 ≫ 今春の東大入試で大健闘した埼玉の高校はどこだ!?
教育クリエイター 秋田洋和論集
今年も週刊誌で「大学合格者高校ランキング」の見出しが躍る時期になりました。東京大学の前期入試の合格発表も行われ、埼玉県内の各高校においても結果が判明しつつあります。「東大の合格実績だけが高校の実力を測る指標ではない」という声に異論はありませんが、進学校を名乗る学校の実力を測るには最もわかりやすい指標であることも事実です。
今回は、埼玉県内の各高校の実力を東大合格者数というフィルターを通して検証してみることにしましょう。
まず、表1と表2の数値に注目してください。
【表1】埼玉県内高校からの東大合格者数推移
おそらく多くの方が、H18年春の入試結果に注目されることでしょう。この年に現役生として大学受験を迎えた「1987年4月~1988年3月生まれ」の世代は、実は『生きる力の育成』をテーマとする現行の学習指導要領で高校3年間を過ごした一期生なのです。そのため、高校での学力低下を恐れた上位層が前年までに比べて中学受験の段階で抜けた可能性が高いこと、ドラマ「ドラゴン桜」のヒットによって、特に地方の優秀生の「東大志向」が例年以上に強く激戦になったことなど、県内公立高校からの東大合格者数激減には複合的な要因も考えられるのですが、最大の原因が「中高6年間の学習内容が私立一貫校に比べて薄かった可能性が高い」ことにあるのは明らかでしょう。
それから3年、今春(H21春)の鮮やかな「V字回復」の結果を見れば、3年前に各公立高校が抱いた危機感がいかに大きかったのか、皆さんにも想像できるのではないでしょうか。
今春の東大入試の結果を全体的に見ると、10年後に振り返ったときに「ここがターニングポイントだった」と分析できるかもしれないほどの変化が見られます。昨年の東大合格者数が1位だった開成高校(東京)が前年より58人減少、2位だった灘高校(兵庫)が17人減少させている一方、着実に力をつけて合格者を増やしている新勢力(地方の進学校を中心に)の台頭が目立っています。また、有名公立高においても、昨年20名以上の合格者を出した西(東京)、土浦第一(茨城)、鶴丸(鹿児島)といった学校では大幅に合格者を減らすなど、実は全国的に見れば「今年は厳しかった」という有名進学校は例年以上に多いという現実があるのです。
そんな中埼玉県の公立高校では、浦和高校は合格者数を堅実に維持し、川越・春日部・浦和一女といった学校が着実に合格者数を増やしました。H18(2006)に浦和高校の東大合格者数が16名にまで落ち込んでしまったことで芽生えた危機感から始まったと思われる、前回紹介したような「公立高校の合格実績向上プロジェクト」が機能していることが挙げられます。こうした方針は、今後の学校選びの際にも大きなポイントになってくることでしょう。
【表2】H21(2009)埼玉県内高校別東大合格者数
また、ここ数年間の埼玉私学の健闘も無視することはできません。H18に初めて「埼玉県内における公立高校の東大合格者比率」を70%以下に落とすことに成功して以来、公立高校のテコ入れにも負けずにこの比率を70%前後で推移させているということは、公立高校のみならず私立高校においても、カリキュラムなどのノウハウが着実に定着しつつあることを証明しているのです。
今春の栄東高校では、東大合格者を11人に増やしましたが、実は「埼玉私学初の東大2ケタ合格」なのです。理科Ⅲ類にも1人合格者を出していますが、今春ではこの1名が「埼玉の高校で唯一の理Ⅲ合格者」であることも記しておかなければなりません。同様に開智や西武文理といった学校も、私学にとって追い風が吹いていた6年前に中学から入学してくれた生徒たちをしっかり育てることが出来なければ、到底このような合格者数には届かなかったはずです。
(注)今春現役で大学受験を迎えた「1990年4月~1991年3月生まれ」の世代は、小5のときから現行の指導要領で学んでいます。この世代が中学受験を迎えたH15(2003)春は、首都圏の中学受験者数が前年より5%以上も増加し、初めて「受験者総数が定員総数を上回る」など、この年から中学受験志向は大きな高まりを見せているのです。
このように、埼玉の私学も着実に力をつけてきていますが、現段階では本当の意味で「浦和高校を脅かす」までの存在にまではなりきれていません。前回紹介した千葉県における「千葉高VS渋谷幕張」のような図式になってはじめて、真の切磋琢磨が始まるのではないでしょうか。この競争こそが埼玉県のさらなる合格力向上につながっていくのだと思います。保護者・受験生の立場から見れば、埼玉での学校選びの選択肢が増えることにつながるわけですから、私はこの競争は歓迎するべきことだと思います。
(秋田洋和)
~秋田洋和~
清和大学法学研究所客員研究員。
私立中学や学習塾への教育コンサルタントとしても活躍。
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