トップページ ≫ 教育クリエイター 秋田洋和論集 ≫ 埼玉も熱い!? 公立中高一貫校ブームはいつまで続く?
教育クリエイター 秋田洋和論集
公立高校の合格発表が終わり、長かった今年度の入試シーズンが事実上終了しました。これから始まる新しい生活に胸躍らせる子どもたちがいる一方、新しく受験生となる子どもたちと保護者の皆様にとっては、やや気が重い春を迎える感じでしょうか。
来年(平成24年度)は、埼玉県公立高校の入試制度が大きく変わります。中学受験や大学受験をとりまく環境も日々刻々と変わっています。現代の受験は「情報戦」です。塾や予備校に通っている方々はもちろん、お通いでない皆さんが不利益を被ることのないよう、このコーナーでもできる限りの情報発信をしていく所存です。今後ともよろしくお願いいたします。
さて今回は、「受験」という大きなくくりの中でも特に熱気に包まれる中学受験、とりわけ最近人気を集めている「公立中高一貫校」にスポットをあてていきます。昨今の景気動向も影響しているのでしょうか、倍率だけ見ると「なかなか合格しにくい狭き門」となっています。その理由として、「公立中高一貫校であれば、私立受験ほどのハードな受験勉強は必要ないから」「公立中高一貫校のことはよく知らないけれど、公立中学に通わせるよりリスクが少ないと思って」といった、「受験準備に対するハードルの低さ」を挙げる保護者の方々が多くなっています。
●埼玉県の公立中高一貫校の動向
埼玉県には「伊奈学園中学校」と「さいたま市立浦和中学校」の2つが、公立中高一貫校として存在します。まず、その人気ぶりを確認してみましょう。
伊奈学園中学校(定員男女計80名)
|
出願数 (男女) |
応募倍率 |
抽選合格者 (男女) |
抽選 実質倍率 |
2次試験 合格者(男女) |
備考 |
2011年度 |
983名 |
12.3倍 |
200名 |
5.0倍 |
80名 |
作文(4科領域含む)・作文 |
2010年度 |
896名 |
11.2倍 |
180名 |
5.0倍 |
80名 |
|
2009年度 |
985名 |
12.3倍 |
180名 |
5.5倍 |
80名 |
さいたま市立浦和中学校(定員男女各40名)
|
出願数 |
応募倍率 |
1次合格者 |
1次 実質倍率 |
2次試験 合格者 |
備考 |
2011年度 |
男422名 |
10.6倍 |
100名 |
4.2倍 |
40名 |
適性検査+作文 |
女471名 |
11.8倍 |
100名 |
4.7倍 |
40名 |
||
2010年度 |
男460名 |
11.5倍 |
100名 |
5.0倍 |
40名 |
|
女466名 |
11.7倍 |
100名 |
4.7倍 |
40名 |
||
2009年度 |
男455名 |
11.4倍 |
100名 |
4.6倍 |
40名 |
|
女521名 |
13.0倍 |
100名 |
5.2倍 |
40名 |
各年度において応募倍率が10倍を越える「狭き門」となっていることがおわかりいただけると思います。ちなみに高校入試では、2011年度入試(実受験ベース)において伊奈学園高校が「前期1.47倍(後期募集なし)」、さいたま市立浦和高校が「前期2.37倍、後期2.92倍」となっていることからも、その人気の過熱ぶりを感じ取ることができます。
●埼玉だけではない公立中高一貫校の人気ぶり
2010年度には、東京都内の公立中高一貫校全11校(募集定員1,604名)に10,421名もの受験生が集まりました。単純に計算して、東京都の小6生全体のうち10人に1人が受験していることになります。2月3日に受験した首都圏の小6生がおよそ35,000名といわれていますから、「この日の受験生のうち、およそ30%がわずか11校に集中している」といったほうが、その過熱ぶりが伝わるでしょうか。
都内では、同日に国立中学校(学芸大附属など)も入試を行っているのですが、実は前年に比べて受験者が減少している学校が多いのです。経済的負担の低さは公立中高一貫校と同様ですから、国立中学の持つ「難易度の高さ」「高校進学に際しての制限」といった部分が敬遠されていると考えるべきであり、公立中高一貫校受験を考える保護者の傾向が「よりリスクを低く」「ダメもとでチャレンジ」であることを示しています。
東京近県においても人気は過熱しています。2008年に新規開校した県立千葉中学校は、県下トップ校である県立千葉高校に併設されたこともあって、初年度倍率がなんと27.06倍になりました(2009年度は16.6倍、2010年度も14.5倍)。2009年に新規開校した神奈川県の相模原中等教育学校は男子14.65倍、女子18.18倍という高い倍率でスタートするなど(2010年度入試では男子8.25倍、女子9.61倍)、多くの学校が高い人気を維持しているのです。
そして、この人気は首都圏のみならず全国に広がっています。2007年度(平成19年)までに開校した公立中高一貫校は全国で72校でしたが、2008~10年度には各8校ずつ開校しており、全部で96校となって、いよいよ3けたの大台に近づきました。2010年度に東京の4校以外で開校したのは、宮城・岡山・徳島・宮崎の4県であり、地域的な偏りが見られないことからも人気のほどがうかがえます。
●大学合格実績はどうなのか?
公立中高一貫校への期待として挙げられるもの1つに「大学合格実績の高さ」があります。一期生の入学から卒業まで6年間かかりますから、「学校の受験指導力」をすぐに見究めることができません。
そんな中、伊奈学園中学校の三期生がこの春大学入試に挑みました。その結果にも注目が集まりますが、一期生は現役で国公立大学へ7名が合格し、二期生では東京大学に現役合格する生徒が出るなど、六年一貫の指導が実を結んでいるようです。さいたま市立浦和中学校は2007年の開校ですから、一期生が大学受験を迎えるのは3年後です。都内では、2005年度に開校した都立白鷗高校でいよいよ今春に、06年度に開校した4校が来春に、6年間育てた一期生の受験を迎えます。ここで世間の注目を集めるような結果を出せば、埼玉県に限らず公立中高一貫校の人気はさらに高まることでしょう。
東京以外に目を向けると、すでに卒業生を出した学校がチラホラと見受けられるようになりました。
2004年4月に開校した県立広島中学・高校では、2010年3月に卒業した第一期生(高校入学組も含む)から「東京大3名・京都大9名・大阪大16名・九州大12名・神戸大4名・広島大36名」といった素晴らしい合格実績を挙げています。同じく2004年4月に開校した京都市立西京高校(附属中学を併設)では、2010年3月に卒業した第一期生(高校入学組も含む)から「京都大28名・大阪大21名・神戸大29名」もの合格者を輩出して注目されています。
●学校選びの基準をどこに置くか
学校選びの価値観や評価が「大学合格実績のみ」で語れるものではないことは、私も承知をしています。しかしながら前述のとおり、公立中高一貫校へ進学させる保護者の中には「低いコストで、無理のない受験準備で、楽しい学校生活の中で、しっかりと大学に合格させてくれる」といった夢のような期待を抱いておられる方も少なくないようで、さらにこれを実現しつつある学校が登場し始めている(ように見える)のですから、今後しばらくの間人気は続くでしょう。そして、都内の公立中高一貫校が期待通りの大学合格実績を出した場合には、埼玉においてもこの人気に一層火がつくことは間違いなさそうです。これまで以上の狭き門になりそうです。
ただし,これだけは注意してください。保護者の方々にとってはキラキラとまぶしく見える学校であっても、6年間通う子どもたちにとっては必ずしもベストな学校とは限りません。学校ごとの自由度が認められている分だけ方向性やシステムはバラバラですから、私立受験よりも念入りな情報収集は必須になります。勉強面においても、日々の授業レベルやスピードの速さ、宿題の量などは保護者の方々の想像以上に大変です。お子様の性格やタイプ(処理能力の速さ)をよく見究めておかないと、ミスマッチが起こるケースも少なくないのです。
「大学合格実績」は学校選びの中では一つの要素にしかすぎない、ということを大人は忘れてしまうことがあります。学校説明会に足を運んだ際には、複数の視点で学校を見究めてあげてください。
~秋田洋和~
教育クリエイター。
塾・予備校の新規事業プロデュースや私立中学の教務コンサル、教育最新情報の発信など多方面で活躍
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