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教育クリエイター 秋田洋和論集
相対評価と絶対評価(1)
公立中学校のほとんどが、今でも昔と変わらず5段階評価で通知表の評定をつけている。我々の感覚だと、通知表の「3」という評定は「あぁ、普通ってことね」ととらえるのだが、実は最近その感覚は通用しなくなっている。通知表の評定に何が起こっているのだろうか。
以前、私たちが子どもの頃の通知表は「相対評価」に基づいて作成されていた。相対評価とは、生徒を成績順に並べて、5段階評価の場合だと
5・・・7% 4・・・24% 3・・・38% 2・・・24% 1・・・7%
を目安として、一定の割合で評定をつける方法である。かつての評定「3」は上位、下位のそれぞれ3割を除いた「30%~70%」の位置にいることを表すので、通知表の評定が「3」であれば「普通の成績」ととらえることは自然だったのである。
それに対して現在の通知表は「絶対評価」に変わっている。絶対評価とは、他の生徒の成績は考慮に入れず本人の成績(テストの結果+関心や意欲、態度)そのもので評価する方法である。これは本人の頑張り度合いを評価に反映できるという大きなメリットを持つ一方で、よく保護者の間で噂になる『テストで100点をとっても「5」がもらえない』『テストの成績はよくないけど、綺麗なノートを提出したから「4」』などいう現象が理論上起こりうるようになったことを意味する。
評定のつけ方の基準があいまいになるということは、先生によって、または学校の方針によって甘い・辛いの差が生じることにつながる。通知表の評定は高校入試に少なからず影響を及ぼすため、最近では評定格差が問題視されるようになった。埼玉においても高校入試では、公立はもちろん私立の中にも、この評定を基にした「調査書(内申書)」を判定基準に使用しているところが多く、この不公平感は高校側にとっても受験生側にとってもかなり気になるところとなっている。
私の手元に、「平成20年度東京都立高校学校等入学者選抜にかかわる都立公立中学校第3学年第2学期の評定状況の調査(本調査)の結果について」という資料がある。簡単に言えば「都内公立中が中3・2学期の評定をどのようにつけたかの一覧」のことである。埼玉の公立中学に関するデータを、残念ながら私は見たことがないので、ここでは東京都のデータを実例として紹介していくことにする。
先ほど紹介した、我々の時代の「相対評価」での成績分布との違いに注目してほしい。
都内P区のA中学では、理科の評定のつけ方が
5・・・46.5% 4・・・30.2% 3・・・22.1% 2・・・1.2% 1・・・0%
となっている。この中学では評定が実質的な3段階評価となっていて、この通知表で「3」だったからといって「理科の成績が普通である」と理解するには無理があることがおわかりいただけると思う。
その一方で、同じP区B中学の理科の評定は
5・・・5.6% 4・・・31.5% 3・・・50.0% 2・・・13.0% 1・・・0%
となっている。同じ区内でありながらA中学と比べて明らかに「5」がつきにくい状況がおわかりいただけると思う。これが評定の学校間格差と呼ばれるものの実態である。
このデータを細かく見ていくとキリがないが、逆に「2」や「1」のつき方に注目すると、
Q区C中学では数学の評定が
2・・・5.6% 1・・・0%
となっている一方で、同じQ区のD中学では数学の評定に
2・・・28.1% 1・・・7.0%
と、全体の3分の1以上の生徒に「2」もしくは「1」がついていることも無視できない。
ここで公開されている「中3・2学期の評定」は、一般的に高校入試では大きな意味を持つ。私立高校の推薦入試では「中3・2学期の5段階評定が合計20以上」といった受験資格が明記されているところも少なくない。また私立高校の中には一般入試の出願資格の中に「評定に2もしくは1がないこと」を明記しているところもあり、「5」や「4」だけでなく「2もしくは1」のつけ方の違いも、場合によっては受験校選びに大きな影響を及ぼす場合も考えられるのだ。埼玉県の入試システムの紹介はまたの機会にするが、公立高校入試においても推薦入試・一般入試を問わずこの調査書が占めるウェイトは、現状ではけっして低くはないので、評定の格差を知れば知るほど保護者の方々が自分の子供の成績に敏感になるのは無理のないことだ。(次回へ続く)
(秋田 洋和)
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