トップページ ≫ 教育クリエイター 秋田洋和論集 ≫ 「PISA型の問題」をみたことがありますか
教育クリエイター 秋田洋和論集
「日本の子どもたちの学力が下がっている」根拠としてよく用いられるのが、OECDが行う生徒の学力到達度調査の結果です。この検査は一般に「PISA型」と呼ばれ、従来日本で重視されてきた「正解力」とは別の視点(読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシー・問題解決)を問うことで注目されています。公立の中高一貫校の入試問題の中にも、このPISA型の検査を参考にしていると思われるものが散見されるようになり、いわゆる「21世紀型の学力」として『論理的思考力』『表現力』『発想力』が重要視される時代がやってきたといえるでしょう。「20世紀型の学力」が暗記力・正解力を重視するものであったことを考えると、我々大人の世代も本来であれば、これから主流になる「21世紀型の学力」について勉強しておく必要があるのではないでしょうか。
しかしながら私が見る限り、教育に従事していない方々はもちろんのこと、現役の先生方であっても、PISA型という名前は知っていてもどんな問題が出題されているのかは知らないという方がほとんどのようです。そこで今回は、日本の子どもたちの特徴が端的に現れている問題を紹介することにします。是非皆さんも挑戦してください。
生徒の学習到達度調査(PISA2006)より
「温室効果」に関する問題
太郎さんは、この2つのグラフから、地球の平均気温が上昇したのは二酸化炭素排出量が増加したためであるという結論を出しました。
質問A 太郎さんの結論は、グラフのどのようなことを根拠にしていますか。
質問B 花子さんという別の生徒は、太郎さんの結論に反対しています。花子さんは、二つのグラフを比べて、グラフの一部に太郎さんの結論に反する部分があると言っています。グラフの中で太郎さんの結論に反する部分を一つ示し、それについて説明してください。
質問C 太郎さんは、地球の平均気温が上昇したのは二酸化炭素が増加したためであるという結論を主張しています。しかし花子さんは、太郎さんの言うような結論を出すのはまだ早すぎると考えています。花子さんは、「この結論を受け入れる前に、温室効果に影響を及ぼす可能性のある他の要因が一定であることを確かめなければならない」と言っています。花子さんが言おうとした要因を一つあげてください。
塾からも学校からも、そして報道からも「地球温暖化の原因は二酸化炭素排出量の増大」と言われて続けているであろう子どもたちであれば、グラフの情報を精査することもなく太郎さんの結論を「正しい」と考えることもあるでしょう。しかしながら大人である皆さんであれば、太郎さんの結論に対して即座に「ちょっと待てよ」と考えていただかないと困ります。また、回答方法が「記述式」であることにも注目してください。選択肢を選ぶ・覚えているキーワードを書くといった我々が受けてきたテストとは、本質的な部分が違っていることがおわかりいただけると思います。この調査の模範解答は示されておりませんので、ここで紹介する解答はあくまで私の見解であることを先に述べておきます。では解答です。
解答A 左右のグラフがどちらも右肩上がりであり、両者の間に関連性があると考えられるから
解答B 1900年から10年の間、1960年から70年の間など、二酸化炭素排出量は上昇しているのに地球の平均気温が横ばいあるいは減少している期間があるから。
解答C (例)太陽の放射エネルギー量は一定であったのかどうか
まず、日本の受験生の結果(正解率)を紹介します。
A:69.3%(3位) B:54.3%(1位) C:17.6%(29位)
おそらく、Cの正解率の低さに驚かれたのではないでしょうか。全体の平均正答率も18.9%ですから、日本の受験生だけが著しく不出来だったわけではありませんが、AやBに比べて明らかに順位が落ちているわけですから、そこには何か原因があるはずです。
アンヘル・スミア氏の分析によれば、『日本の生徒は様々な科学分野にわたり素晴らしい知識基盤を備えているが、初めて出会う状況で、知っていることから類推し知識を応用する必要がある場合や、問題と取り組む前に科学的問題を特定し、組み立てる必要がある場合には成績が下がる』そうです。まさに、この分析にあてはまるのがCの問題であり、自由記述での答えにくさも重なっていることが原因のようです。
私だと質問Bの正答率に目がいきます。数学を勉強しているときでも「なぜそうなるのか」という根拠をつきつめたり証明したりすることを嫌う生徒は年々増えているからです。「なんとなくそう思ったから」とか「理由はわからないけど公式を習ったから」といった思考で何となく問題を解き、何となく勉強した気分になっているだけの生徒が少なくないのです。しかしながら「世界標準の学力」では、解法を暗記して指示通り解き○をもらう勉強、いわゆる20世紀型の学力とされる「知識やテクニックの詰め込み」は通用しません。「なぜ・どうして」という視点を常に持ち合わせ、自分で試行錯誤しながら結論を考える姿勢を身につけることが要求されています。ところが今の中学生や高校生の中には、「ウザい」「空気読めよ」といった言葉が横行し、「場の調和」を保つことこそ大事という傾向もあるようです。この問題に出てくる花子さんのような人を「ウザい」存在と考える子どもは、決して少なくないだろうというのが私の感覚です。
資源が豊富にあるわけではない我が国にとって、今後も経済大国であり続けるための条件は「質の高い人材の育成」以外にありません。人材を「人財」と読み変えてもよいでしょう。果たして今の子どもたちを取り巻く環境が、このような課題を克服するに足るものなのかどうか皆さんもチェックしてみてはいかがでしょうか。
(秋田洋和)
~秋田洋和~
清和大学法学研究所客員研究員。
私立中学や学習塾への教育コンサルタントとしても活躍。
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