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教育クリエイター 秋田洋和論集
小・中学校にお通いのお子様をお持ちの方であればもちろん、小・中学校に縁がなくなった皆さんであっても、皆さんの近所にある学校の様子に関心を持たれることはあると思います。その学校の先生方は「若くてハツラツ」のタイプが多いですか、それとも「シブくて落ち着いた雰囲気」の方が多い様子でしょうか。福田首相の退陣騒動が連日報道されていた9月上旬、目立たなかったのですが「小・中・高校の教員の平均年齢」に関する調査結果が公表されました。それによると、全国の小学校教員の平均年齢は44.4歳、中学校教員の平均年齢は43.8歳だそうです。そして埼玉県では平成18年10月1日現在のデータが公表されており、それによると小学校教員の平均年齢が44.7歳、中学校教員の平均年齢が44.5歳とのことでした。
ちなみに私はまだ平均年齢以下でして、体型はすっかりベテランですが職員室の中ではまだ若手で通用するのかもしれませんね。今回は、この「教員の平均年齢」という調査結果の背景を考えてみたいと思います。
学校や塾で直接子どもたちに接し、また、いくつかの学校の先生方の仕事ぶりを客観的に見させていただいている立場から言うと、特に小学生達の溢れるエネルギー(しかも30人以上の分)を40代・50代の先生方が毎日1人で全部受け止めるためには、想像を絶するパワーが必要です。自分に出来るかといえば正直自信がありません。そのくらい疲れる仕事であることは事実で、それを一生の仕事としてやり続けておられる方々には本当に頭がさがります。ですから私は「埼玉の小学校教員の平均年齢が44.7歳」という結果からは、「ハツラツとしている先生」の様子よりも「疲れている先生」の様子を想像してしまいます。皆さんの近所の学校の先生方はどのような感じでしょうか。
塾講師でも教員でも、当然ながら新人の頃は稚拙な技術しか持っていないわけです。そんな新人でありながら「よい先生」と言われる人たちは、例外なく「ほとばしる熱意」を武器にしています。
子どもたちに接するときも、とにかく「今日一日が勝負」のまるで高校野球さながらのトーナメント戦の勢いで、自分の技術が未熟である分は「体力」でカバーしていくような指導をし、日々睡眠時間を削って授業準備や教材研究に時間を割いています。また、こうした「無茶」を肉体的にも立場的にも出来るのが20代であり、この年代の最大のメリットです。そして、自分自身にちょっと子どもっぽさを残して「お兄さん・お姉さん」的感覚で子どもに接することも許される時期です。ですから、20代でありながらすでに疲れて見える先生に接すると、私は心配してしまいます。
その後30代・40代と年齢を重ねるにつれ、肉体的に「無茶」をすることはつらくなってきますし、当然ながら子どもたちとの年齢差が大きくなれば、当然ながら今までのように「兄・姉」では通用しなくなることは言うまでもありません。そのかわり経験という大きな武器を手に入れ、子どもたちとの接し方をシフトチェンジする必要に迫られるのです。
どの世界であっても一つのことを長く続けていれば全体を俯瞰できるようになります。いい意味で「手抜き」が出来るようになるし、自分自身の技量も上がってきますから、徐々にではあっても「技術」と「熱意」のバランスがとれるようになってきます。「運動エネルギーと位置エネルギーの関係」のように、教員にも「エネルギー保存の法則」の類があるとすれば、その両輪は「技術」と「熱意」であり、この2つのエネルギーのバランスが最も良いときがその先生にとっての「全盛期」であり、その一方でシフトチェンジを考え始める時期だと私は考えるのです。自分の経験から言うと、子どもに接する仕事をする人々の「全盛期」は30代後半くらいだと思います。塾業界には「35歳限界説」という考え方もあり、40歳前後で指導の第一線から退く人も少なくありません。
だから私は、埼玉県の小学校教員の平均年齢は、少々「高いな」という感想を持ってしまうのです。皆さんはどのような感想を持たれるのでしょうか。
その後の動向にも目をむけてみましょう。埼玉の教員のみならず全国的に、小・中学校のどちらも50歳以上の層が多いのは大量に採用した時代の影響で、このため平均年齢はしばらく上がりそうです。しかしながら団塊の世代が定年を迎えた影響もあって、埼玉県における20歳代の教員採用のペースは全国平均を上回っており、少しずつではありますが若返りが進んでいるようにみえます。ただし、全国的に見れば順調に世代の入れ替わりが進んでいるのは、埼玉をはじめとする東京周辺の都県や大阪府など、大都市圏が中心であることも紹介しておかなければなりません。07年度小学校教員採用試験結果を見ると、東京都の採用人数1129名に対して秋田県はなんと16名という狭き門となっています。埼玉県でも近い将来ベテランの先生方が一斉に学校を去り、代わりに大量の新規採用が必要になります。
これからは、地域ごとに「先生の質」がまったく違う時代がやってくる、というのは言い過ぎではないでしょう。
最近の保護者の中には、担任の先生に対して「あたり」「ハズレ」といった評価をメールなどでやりとりしあう人が少なくないと聞きます。今回御紹介した「先生方の実態」を頭に入れておけば、現実問題として日本中どの地域であっても、皆さんが理想とするような「全盛期」の先生が必ずしも多くないことを御理解いただけるのではないでしょうか。ですから、せめて皆さんの周囲にいらっしゃる先生に対しては、「技術」と「熱意」のうち足りないものをチェックする「減点法」ではなく、彼らが得意とするものに目を向けてあげる「加点法」で見守ってあげてほしいと、個人的には思うのです。
埼玉県小学校教員の年齢構成 | ||
小学校 | 全国平均年齢 44.4歳 | 埼玉平均年齢 44.7歳 |
年代別 | ||
~20歳代 | 11.30% | 12.80% |
30歳代 | 20.70% | 20.60% |
40~44歳 | 14.20% | 12.10% |
45~49歳 | 18.40% | 14.50% |
50~54歳 | 20.80% | 15.80% |
55歳以上 | 14.50% | 24.10% |
埼玉県中学校教員の年齢構成 | ||
中学校 | 全国平均年齢 43.8歳 | 埼玉平均年齢 44.5歳 |
年代別 | ||
~20歳代 | 9.70% | 13.10% |
30歳代 | 24.10% | 19.60% |
40~44歳 | 16.70% | 10.20% |
45~49歳 | 21.40% | 19.20% |
50~54歳 | 16.30% | 14.80% |
55歳以上 | 11.90% | 23.20% |
市町村教育委員会別小・中学校教員の平均年齢 | ||||||
小 学 校 | 中 学 校 | |||||
市町村名 | 男 | 女 | 計 | 男 | 女 | 計 |
県 | 45.4 | 44.4 | 44.7 | 45.8 | 42.5 | 44.5 |
伊奈学園 | - | 40.1 | 41.4 | 40.5 | ||
さいたま市 | 43.9 | 43.2 | 43.4 | 45.4 | 42.9 | 44.4 |
南部 | 44.1 | 44 | 44 | 45.5 | 41.9 | 44.1 |
西部 | 46.5 | 44.4 | 45.2 | 46.6 | 43.2 | 45.3 |
秩父 | 47.5 | 46.2 | 46.7 | 45.2 | 43.1 | 44.5 |
北部 | 46.8 | 44.9 | 45.6 | 45.9 | 42.2 | 44.5 |
東部 | 45.8 | 45.3 | 45.4 | 45.5 | 42.4 | 44.3 |
H18・10・1現在 彩の国統計情報館より |
(秋田洋和)
~秋田洋和~
清和大学法学研究所客員研究員。
私立中学や学習塾への教育コンサルタントとしても活躍。
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