トップページ ≫ 教育クリエイター 秋田洋和論集 ≫ 埼玉の中学・高校に求めるもの(1)「現代社会が求めるスキルの育成」
教育クリエイター 秋田洋和論集
最近,報道で「大学生の就職活動事情」を目にする機会が多くありませんか。「景気動向に伴う内定率の低下」といった表面的なものではなく,「求められる人材の質が変化している」ことを主題とした報道が非常に目立ちます。皆様もお感じのことかもしれませんが,今年(2010年)は企業の新卒採用に関して「分岐点」となりそうですね。
国内だけでなく海外にも拠点を持つ企業の中に「日本国外での採用を強化する」動きが出始めています。その企業は三菱重工からユニクロまで様々で,特にパナソニックは来年度採用予定1390人のうち1100人を海外で採用し,日本国内の290人についても留学生を積極的に採用するとのことで,欲しいのは「世界を舞台に常に挑戦し続ける姿勢と,尖った個性や能力を持つ人材」だそうです。また,「均質的な人材を採用するつもりはありません」とホームページには明記されています。また,地域密着型の企業の中にも,「少数精鋭」をキーワードに採用人数を絞るところが少なくありません。
企業の生き残りのためには,少子高齢化が進む日本国内だけを商圏にしていては先細りですから,中国をはじめとする新興国への進出が不可欠なのでしょう。そうなれば,コストの高い日本人を大量に採用し続ける必要はなくなります。日本人の採用枠は「幹部候補の本当に優秀な学生だけ」とし,後は各地の優秀でコストの安い若者たちを採用すれば事足りることでしょう。つまり,日本の多くの大学生にとっては,そう遠くない将来に「就職活動時のライバルはアジア全域の優秀な学生たち」ということになってしまうのでしょうか。この流れはこの数年の間に,かなり速くなっていくのではないでしょうか。
それに対して,現在の「埼玉の中学・高校」において,どれほどの学校が「尖った個性や能力」の育成に力を注いでいるのでしょうか。もちろんすべての学校を直接見て確かめたわけではありませんが,自信を持って「大丈夫です」と答えてくれる学校の数は,決して多くないと予想しています。
「尖った個性や能力」と言い方はあいまいですから,もう少し言い方を変えて「優秀な学生」に求められる「これからの時代に必要なスキル」としてみましょう。皆さんのお子様が通われている学校では,先生方がこうしたスキルの育成を意識していらっしゃるでしょうか。
「ちょっとよくわからない」という方もいらっしゃるでしょうから,具体的にスキルの中味を考えてみます。将来的に「英語や中国語が自由自在に使える」ことは前提になりそうですが,それ以外に重要視されるのが「コミュニケーション能力」です。これまで日本の中では当然のように通用してきた様々な文化や慣習も,これからは常識ではなくなります。その分「価値感が異なる様々な人材をコーディネートしてチームとしてまとめる能力」が,これからの若者たちには当然求められるようになるでしょう。
そのためには,まず自分の考えや主張を常に持ち,自分と異なる考え・価値観の仲間や顧客を受け入れながら仕事を進めていく姿勢・習慣が求められます。積極性はもちろんのこと,提案型の仕事を進めるためのプレゼン力(表現力),チームをまとめるためのコミュニケーション力や課題対応力も必要です。これらは,経済産業省が「社会人基礎力」と名付けているものです。
こうしたスキルの育成は,「生きる力」という名の下に,学校でも試行錯誤しながら実践が進められていることでしょうが,残念ながら今の日本の学校では,中学校であれ高校であれ,「将来必要とされる大切な能力」という高い意識を子どもたちに植え付ける教育には至っていないようです。
いわゆる「キャリア教育」一つをとっても,ほとんどは「進路選択」だったり「仕事調べ」だったりと,「社会のことを知ろう」という点に重点が置かれているようであり,生徒たちの目線(希望や憧れ)に基づいて興味あるものを調べ,体験するというレベルで止まっています。
そして,埼玉においても公立・私立問わず,高校の普通科が急激に予備校化している(次回詳しく紹介します)状況の中で「とにかく点数を取ってよい大学に行くこと」が第一義とされている部分が目立ち,中学では「空気を読む」という言葉の通り,子どもたちは学校を中心とする彼らの生活圏の中で,違う価値観を排除しようとしたり自分の考えを主張せずにその場に合わせようとすることばかりを,無意識のうちに学んでいるような気がしてなりません。
かなり強引な私見ではありますが,つまり「社会から求められるスキルとは何だ」という本質的な部分の発見は,今のほとんどの中学や高校では手付かずになっているのが現状だと思うのです。
こうした日常から,子どもたちはどうやって「尖った個性や能力」を育成していくのでしょうか。彼らが将来求められるスキルとは真逆の事象が,彼らの日常に蔓延しているようにしか私には思えないのです。
「10年後,20年後の日本がどうなるのか」について考えるというのは,小学生はもちろん,中学生や高校生にとってもかなり難しいことかもしれません。しかしながら,これから日本の企業が生き残りを賭けて目指そうとしている方向性,子どもたちが近い将来に置かれるであろう厳しい競争について,あえて普段からご家庭で話題にすることこそ,今の子ども達にとっては日々の勉強と同様に,あるいはそれ以上に必要な教育ではないでしょうか。
埼玉の中学や高校には,こうした教育を無視せずしっかり力を入れてほしいと思います。
「自分の考えを書いたり話したりして表現すること」が必要とされる理由を,「国語の得点のため」ではなく「未来を生き抜くため」と根拠を持って話せる子どもが一人でも二人でも増えないと,本当に日本が滅びるような気がしてならないのです。
~秋田洋和~
教育クリエイター。
塾・予備校の新規事業プロデュースや私立中学の教務コンサル,教育最新情報の発信など多方面で活躍
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