トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ リッチなハートは読書から ②マークス寿子 「イギリス気ままカレンダー」(中公文庫)より
外交評論家 加瀬英明 論集
生き方は自分で選べ
著者のマークス寿子氏はイギリス関連のベストセラーを数多く生み出しており、リンボウ先生こと林望氏と双璧をなす、いわゆるイギリス本の大家である。インドを経由して英国に渡ったいきさつや、いわゆる学者あがりではなく純粋に民間レベルの渡航者として英国生活をスタートしているのだが、適応能力に優れていたのか、数々の研鑽努力を苦とせずにイギリス社会から認められた女性である。かっては英国貴族と結婚して、その夫人として上流社会に生きていた稀有な日本人なのである。これらの経験をもとに書き上げたエッセイの中には日本社会が学ばなければなければならない多くの示唆に富んでいる。著者は痛快なほど辛口であり切れ味も鋭いが、なんとなく人間臭さが抜けないのである。ここに著されたいろいろな見識に対して、より真摯な気持ちで向き合うと、日本人である自分たちはどう生きたほうがいいのだろうかが、なんとなく見えてくるのである。内容に富んだ著作なので、その一部を要約して次に紹介いたします。
『最悪のことは「どうでもいい」と諦めることだ。
人に誉められなくてもいい、時に寝て、食べたいものをお腹一杯食べて、
つっかけで外を歩き、腰巻風ロングスカートで家の中をずるずると
歩き回っていればいい、と考えるようになったら、坂道を下るのは早い。
難しいことは頭が痛くなるからいや、危険なことはゴメン、
疲れることはやめよう、と体にも頭にも、何の刺激もない生活になる。
いったんそうなると、人に誉められることなど絶対にないから、
ますます努力しなくなり、しかも、ひがみだけは強くなって
他の人が誉められのが我慢できない、そんな生き方をしていれば、
90歳どころか、80歳でも、70歳でも楽しくないだろう。
女性の平均寿命が80歳を越えるようになった今日、
だらだらと年だけとってゆくのではなくて、
最後まで自分で選んだ生き方をしたい。
かって、イギリスの老政治家で、イギリスの社会福祉の基礎を築いたといわれる
グッドマン卿は言ったもんだ。
「貴族院は最高の老人ホームだ。あそこに行けば友人に会える。
敵にも会える。おいしいランチやお茶がサービスされて、
若い美人の秘書が面倒をみてくれる。
なかでも一番いいことは、国事を論じるという刺激があることだ。
刺激がないと人間はボケるからね。」』
イギリス病に悩まされ、かっての栄光は歴史のかなたに消え去ってしまった大英帝国だが、わが国だって、まさに危機的情況を迎えている。
人間は年を経れば老いる。当たり前である。生物のほとんどがそうであろう。
国家も旭日の創成期から繁栄期をへて成熟期と向かう。成熟した社会では年金・福祉・介護など熟成社会ならではの制度が国家財政に大きくのしかかり、ついには支えきれなくなって崩壊し始める。つまり、国家も年と共に老いてゆくことになるのだ。
あふれる若さと健康な体で人生を謳歌した時代が、あっと言う間に過ぎ去って行くのが人の世ならば、手堅い経営で多少国家の繁栄を引き伸ばせたとしても、国家社会だって永久的な発展なんて絶対にありえないのだ。歴史を紐解けば国家と社会は常に興亡と衰退を繰り返していることが良く分かる。
しかし、国家社会を形成しているのは人間である。つまり、国家を人間に例えれば、老化現象に対して、どう向き合ったらいいかである。自分自身の健康を自分で護る。国家財政をむしばむ医療費と介護費用をもっともっと減らすような努力をもっと浸透させるべきなのである。
マークス寿子氏は英国の介護制度研究の第一人者であり、英国の介護福祉制度を視察する日本人の窓口を努めている方である。貴重な経験から、福祉制度の存続はひとえに国民ひとりひとりの自覚がすべてであると言い切っている。
食べたいものを少しだけ我慢する。毎日飲みたいところだが少しだけ減らす。家に閉じこもらないで散歩をする。わがままいってないで、ご近所とも仲良くする。家族とも、もう少し敬愛の念を抱いて接するようにする。そうすることによって、ほとんどの人が介護保険のお世話にならないで充分生活できるようになるのである。最後まで自分の足でトイレに行き、食事もし、お風呂にも入れる。介護のお世話になるよりも、この方がよほど楽しいのは誰しも同じであろう。熟成された上の、さらなる熟成社会なら、必ずここに気づき目覚める筈である。このつみ重ねが絶対に国家社会を救う。いまからでも遅くはない、日本を再起動させる原動力は個々の自覚にあるのだ。
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