トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 「伊勢神宮で“稲妻”に打たれたブルーノ・タウト」 外交評論家 加瀬英明
外交評論家 加瀬英明 論集
日本は近代建築にも、大きな影響を及ぼした。ブルーノ・タウトが伊勢神宮の内宮を訪れて、外容と内容が一致しているのに驚いて、「稲妻に打たれたような衝撃をうけた」と語ったのは、有名である。
19世紀までの西洋建築は、東京の明治生命本社ビルがその典型だが、外装がデコレーションケーキのように飾りたてられていた。20世紀に入ると新建築運動が興って、外容と内容が一致した機能的なビルが生まれるようになった。
ジャポニスムから強い影響を受けた建築家として、チェコスロバキア出身のアドルフ・ルーズ(1870~1933)と、オーストリア生まれで、アメリカにおいて活躍したリチャード・ジョセフ・ノイトラ(1892~1970)の2人が、有名である。ルーズはモダニズムの旗手として囃されて、「ヨーロッパのフランク・ロイド・ライト」ともいわれた。
ノイトラは昭和5(1930)年に、日本と中国を訪れた。東京と大阪で国際建築協会の主催によって、後援会を催している。
ノイトラは桂離宮をはじめとする、伝統建築を訪れた。帰国すると、ベルリンの建築学会誌『ディ・フォルム』に寄稿して、「私の空間の処理と自然に対する感性と、完全に一致した。(略)私は生涯求めてきたものに、出会った。私はもはや孤独ではなかった」と、絶賛した。
タウトは住宅の設計によって、ヨーロッパや、アメリカで高い評価を博していた。1924年に著した『新しい住宅』のなかで、「ヨーロッパへの日本の影響は、強大であった。今日の近代建築が世にでたころ、すなわち1920年前後にヨーロッパ住宅の簡素化に最も強い推進力を加えたのは、大きな窓や戸棚を持ち、まったく純粋な構成を有する、簡素にして自由を極めた日本住宅であった」と、述べている。
今日の虚飾を省いた、機能的な西洋家具も日本の影響を強く受けている。日本は世界の美意識の師であった。だが、西洋人がいつになったら、日本の心の働きに倣ってくれるだろうか。
(徳の国富論 第5章 美意識が生き方の規範をつくった )
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