トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 「“かな”でつづる大和ことばは美しいせせらぎ」 外交評論家 加瀬英明
外交評論家 加瀬英明 論集
それにしても、“かな”をつくったことが、日本人の美意識を時を越えて、生かし続けた。
漢字は中国から日本へ紀元一世紀前後に伝わったとみられるが、さだかでない。奈良時代に入っても、史部(ふびとべ)や、文字を司る部は、帰化人かその子孫だったから、ひろく使われるようになったのは、さらにあとのことだったと思われる。大和朝廷は職業によって集団を編成して部と呼んだ。
今日でも、日本語は日本固有の言語である大和ことばと漢語を併用することによって、成り立っている。大和ことばは、和語ともいわれる。
日本語はこの意味では、英語と似ている。英語も和語に当たる古い英語に、漢語に当たるギリシア語、ラテン語を語源とする外来語が混じっている。もとの英語がせせらぎの流れだとすると、ギリシア語、ラテン語という固い岩に当たって、美しい飛沫をあげる。大和ことばに漢語が混じっている日本語を、思わせる。
イギリス人の心に訴えようとするなら、外来語を省いて、古い英語だけを使うことになる。かなでつづられる大和ことばは、これと同じように、美しいせせらぎだ。
漢字が二千年あまり前に輸入されたのにもかかわらず、胸を打とうとすれば、大和ことばを使わなければならない。国家といわずに「くに」、生命より「いのち」、憧憬より「あこがれ」、生死よりも「生き死に」、恋愛より「こい」、別離より「わかれ」といえば、心が動かされる。
弥生時代の蓮の種から見事に開花した大賀蓮のように、和語は逞しい生命力を保ってきた。
大和ことばは、日本人に特有な美意識を、運び広める役割を果たしてきた。
(徳の国富論 第5章 美意識が生き方の規範をつくった )
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