トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 近代化の秘訣は「一族(ファミリー)」より「公(パブリック)」 外交評論家 加瀬英明
外交評論家 加瀬英明 論集
日本は世界のなかで、きわめて独特な文化を築いてきた。
ことに隣の中国や朝鮮半島と較べると、日本の国柄をよりよく理解することができる。
私はアメリカやヨーロッパで、日本文化について講演することがある。ところが、聴衆のほぼ全員が誤って、日本が中国文化圏に属していると、考えている。もっとも、日本でも日中が「同文同種」で近い存在だと、信じている人々が少なくない。
そこで私は、日本文化がいかに固有なものかということから、説き起こすことにしている。日本と中国文化との違いは、ヨーロッパのキリスト教文化圏と、海を隔てた対岸の中東にひろがるイスラム教文化圏とのあいだの違いよりも、大きいと指摘する。
そして分かりやすい例として、儒教をとって説明することにしている。
儒教は中国から、あるいは朝鮮半島を経由して、4世紀ごろ日本に伝わった。
ところが、日本にくると、中国や、朝鮮半島とまったく違うものになった。儒教でもっとも大切な徳は、「孝」である。孝が儒教の道徳思想の根本であって、すべてに優先する。
儒教が日本に渡ってくると、孝を何よりも優先するのがなじまなかったので、忠を上に乗せて、「忠孝」となった。日本では古代から家族関係を越えて、村落共同体が重視されていた。
中国では皇帝の一大事の時に、自分の親が郷里で重い病気にかかったら、皇室のもとを辞して、親のもとに帰るのが人の道とされた。朝鮮においても、同じことだった。
朝鮮は中国を宗主国として仰いだ属国だったから、中国文化にどっぷりと浸かってきた。韓国は20世紀に入るまで500年にわたって李朝のもとにあって、李氏朝鮮と呼ばれた。自ら「小中華」と称して誇り、「慕華思想」といって中国を崇めた。
ところが、日本では藩の一大事の時は、父親が臨終の床に伏していようと、藩主のもとにとどまって藩の大事に当たるのが、人の道とされた。
日本が韓国を併合する前に、数百人の日本軍が漢城と呼ばれた現在のソウルの近くで、数千人の韓国軍に包囲された。その時に、韓国の司令官の父親が死んだという報せがもたらされたので、部下と打ち合わせもせずに、慌てて郷里に帰ってしまった。おかげで日本軍が危機を脱したという、実話だといわれる話がある。
今日でも中国と朝鮮では、自分の一族を何よりも大切にする。
私はアメリカやヨーロッパで講演する時には英語を使うが、孝を「ファミリー」、忠は公だから「パブリック」と訳す。日本ではパブリックをファミリーよりも、上に置いてきた。
日本の他のアジア諸国では、公よりも一族を大切にした。なぜ、日本だけがアジアのなかで、西洋の帝国主義の脅威に屈することなく、近代化を成し遂げられたのかといえば、公を一族の上に置いたからだった。日本では庶民にいたるまで、公益の精神を旺盛に持っていた。
その意味では、日本アジアよりも、ヨーロッパや、アメリカに近い。もっとも、イタリアや、スペインなどのラテン民族は一族を大切にするが、イギリスや、ドイツや、アメリカでは公を重んじている。
(徳の国富論 第6章 「指導者」や「独裁者」がなかった日本語)
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