トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 276藩が地方の力を培った 外交評論家 加瀬英明
外交評論家 加瀬英明 論集
江戸時代は中央政権でありながら、地方分権の時代だった。それぞれの藩に小さな政府があって、それなりに自立していたことが、地方の力を培った。お国自慢の伝統を育くみ、地方のやる気を引き出した。藩は名産品を競ってつくった。江戸時代が終わった時には、276の藩があった。
明治に入ってからの日本の発展は、地方が発達していたことも力となった。日本が多くの藩に分かれていたのは、江戸時代前の群雄割拠の時代がもたらしたが、幕藩体制の下で平和裡に共存したから、地方の力を養った。
中国と朝鮮では皇室と国王が絶対権力を握っており、中央の官吏を地方に派遣して治めた。宮廷では賄賂が横行して売職買官が行われ、地方長官はもとを取るために、任期中に民衆を徹底的に搾取した。
李朝時代を舞台にした有名な小説に『春香伝』がある。朝鮮では著述を行うと迫害されることが多かったので、この作者も不詳である。李朝後期の作であるが、悪代官が宴を催している場面がある。
「美酒は千の民の血にして、玉のようなる盤の上の佳き肴は万の民の膏なり、燭台の蝋が落ちる時、民の涙落ち、歌声の高き處に、民の怨みの声も亦高まる」(許南麒訳、岩波書店)と、描かれている。
韓国の崔基鎬・加耶大学教授が『韓国堕落の2000年史』(祥伝社)のなかで、李朝のもとで民衆に対する苛斂誥求がいかに酷かったか、李朝末期の代表的な知識人だった、李人稙(イインジク)(1862~1916)の詩『血の涙』を引用している。
「両班たちが国を潰した。賊民は両班に鞭打たれて、殺される。殺されても、殴られても、不平をいえない。少しでも値打ちがある物を持っていれば、両班が奪ってゆく。妻が美しくて両班に奪われても、文句をいうのは禁物だ」
(徳の国富論 第6章 「指導者」や「独裁者」がなかった日本語)
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