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外交評論家 加瀬英明 論集
私はこの10年ほど、5月のゴールデンウィークの連休が、アメリカでは休日でないことから、ワシントンで過ごしてきた。だが、2007年は6月に延ばした。
イギリスのエリザベス女王が5月7日からアメリカを公式訪問することになっており、ワシントンが沸き立って、誰もが気もそぞろになっていると、思ったからだった。
じっさい、81歳になる女王とフィリップ殿下は、国をあげた歓迎を受けた。女王夫婦は第1日目の夜に、ホワイトハウスで催された晩餐館に臨み、130人の選び抜かれたトップの名士が、参会した。ホワイトハウスの南庭で行われた歓迎式典には、抽選で選ばれた7000人の幸運な善男善女が、詰めかけた。
アメリカ人は旧宗主国のイギリス王室に、理屈を越えて魅せられてきた。エリザベス女王に会うと、「膝ががくがくする(ゴーウィーク・イン・ザ・ニーズ)」という。といって、アメリカ人が王制を採ろうとしているわけではない。
歓迎式典の挨拶では、ブッシュ大統領がすっかりあがってしまって、「我が国が建国200周年を祝った17・・・」と、とちった。1776年は、アメリカが独立した年だ。
晩餐会には、両親のブッシュ元大統領夫婦も、連なっていた。母親のバーバラ夫人が夫の在任中の1991年に、女王が同じ場所でもてなしたことを振り返り、女王に息子の現大統領を指して、「あの時は、この子が失礼なことを、万一、申し上げてはいけないので、席を離して座らせました」と、冗談めかして言った。
すると、ブッシュ大統領が女王に「あなたの御一家の“黒い羊”は、誰ですか?」と、半畳を入れた。チャールズ皇太子を皮肉ったつもりだったが、女王が「余計なお世話だわ」と、切り返した。
エリザベス女王は1952年に即位したが、これまで10代にわたるアメリカ大統領と親交を結んできた。女王は“君臨すれど、統治せず”という存在であるが、一身でイギリスの伝統文化と国柄を表現することによって、イギリスに品格を与えてきた。
アメリカ人がイギリス王室に憧れるのは、女王をはじめとして王族たちが品位を保っているからだ。イギリスの王室は礼儀作法(デコラム)を守り品格があるが、共和制をとっているアメリカには、そのようなことが欠けている。
アメリカは開拓者が築いた国であるために、国民性がどうしても荒々しく、品性が劣ってしまう。そこで、法をもって治めている。しかし、社会に安定と秩序をもたらすものは、法ではなく、礼儀作法である。法は礼節なしには、力はもちえない。アメリカ人は賢明であるから、胸の奥底でこのことを知っている。
5月に、天皇、皇后両陛下がスウェーデン、バルト3国、イギリスを訪問された。外地で歓迎を受けられるお姿をテレビで拝したが、お二人の一挙一動に古く、品格がこもった文化が結晶していた。お二人は二千年以上の長い歳月にわたって侵されることがない、自然な威厳を備えていられた。
このような品格を、一般の国民は持ちえない。私は誇らしく思った。
(徳の国富論 第7章 神事と歌を継ぐ天皇)
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