トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 一視同仁の微笑と個人対個人の微笑外交評論家 加瀬英明
外交評論家 加瀬英明 論集
歴代の天皇が備えている気品は、どこから発するものなのだろうか。
昭和天皇が昭和46年に、皇后陛下とご一緒に、ヨーロッパを訪問された。ロンドンのビクトリア駅でお召し列車から降りられると、エリザベス女王とホームで握手を交わされた。
私はその時に二人の微笑みかたの違いに、日本と西洋の違いをみたと思った。エリザベス女王は一瞬、鋭い視線を相手に注いで、ほほ笑んだ。あたかも私はあなたに対してほほ笑んでいるが、他の人に対してはほほ笑んでいないということを感じさせた。狙い撃ちにするような、個人対個人の微笑だった。
これに対して、昭和天皇の微笑は曖昧で、焦点が定まらず、いったい誰に対してほほ笑んでいるのか、わからないものだった。全世界に対して、笑っていられた。
一視同仁の微笑である。やはりイギリス王家が権力闘争の中から、成立した王家なのだからだろう。味方と敵とを、分けなければならないのだ。
エリザベス女王の笑いは、西洋人の笑いだった。それに対して、昭和天皇の笑いは、和を重んじる日本の生活文化に根ざしていた。
このような笑い方には、宗教もかかわっている。西洋のユダヤ・キリスト教の神は聖書に書かれているように、“怒りの神”である。自分以外の神を認めず、異端を許さない、嫉妬心が強い“嫉みの神”である。
だから、神だけではなく、信者のほうも怒りっぽい。神の命令は絶対に守らなければならない、上から下への垂直な宗教である。イスラム教もユダヤ・キリスト教の根から生まれたから、同じだ。
そこへゆくと、日本の神々は天照大御神が“天の岩屋”からお姿を現わされると、いっせいに笑ったというように、明るい神である。神々が横ならびになっている。
7世紀の宮廷歌人・柿本人麻呂が万葉集のなかに「ひさかたの天の河原に八百万(やおよろず) 千万神(ちよろずかみ)の神集い座(いま)して神分分(かむはかりはか)りし時に」と歌ったように、神々は神謀―合議される。日本は太古の時代から、和を重んじてきた。
日本は何と優しい国なのだろうか。フランス人のベルサイユ宮殿も、イギリスのバッキンガム宮殿も、絢爛豪華に建造されている。イギリス王家が家名をとったウインザー城も、民衆を威圧する力を誇示している。
中国の北京に歴代の皇帝が住んだ宮殿だった故宮があるが、壮麗で息を呑まされる。金色の瓦屋根が見渡すかぎり広がり、輝いている。どの建物に入っても、数々の財宝が展示されている。
(7章 神事と歌を継ぐ天皇)
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