トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 都会生活は錨(いかり)のない船 外交評論家 加瀬英明
外交評論家 加瀬英明 論集
都会における生活は人工的であり、快適になるにつれて、無機的になっている。
地球を遠く見て浮かぶ宇宙基地は、さらに人工的で、地上の季節だけではなく、昼と夜からも断ち切られている。生活が機械的な時間によってのみ、律せられている。
今日の私たちは、この「時間」によって縛られ、動かされている。このような時間とは、何だろうか。
印刷技術や、テレビなどによって、私たちの想像の世界が大きく拡がったかたわら、血縁や地縁による現実生活での絆が弱められた。そのために、私たちの存在自体が、不確かなものになっている。
人を囲んできた、小さいが温もりのある世界が破壊されたのと反比例して、虚像が見せる世界はどこまでも拡がり、血が通わない冷たい世界が大きくなった。あまりに多くの情報を与えられるため、自己が卑小化し、自分の役割すら、わからなくなっている。
人は自分を創りだそうとする意志と、周囲から望まれる自分との接点に、生きている。かつては血縁や、地縁や、働く場によって束縛され、規定されていたので、不自由な面はあったが、しっかりとした自分を持とうとした。しかし、身近な周囲との結びつきが弱まるにつれて、つっかい棒がなくなったような不安にかられる。
豊かさが増したために、人は中国の農民のようにひとつの場所に定住を強制されることもなく、物理的にも精神的にも束縛されなくなった。しかし、選択
の幅があまり大きくなると、錨(いかり)のない船のように漂うことになる。
本来、自由は人の主体性を保証するものであったはずである。だが、多くの人たちは自由になったために、自分に与えられた場を見失って、あてもなく彷徨っているような喪失状態に置かれている。
東京もつい三、四十年ほど前までは、人々が強い絆によって結ばれていた。ところが、今日の大都会は人が集まるところであって、住むところではなくなってしまった。
(8章 神道は新しい世界宗教であるエコロジー教だ)
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