トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 鎮(しず)まる日本の神々 外交評論家 加瀬英明
外交評論家 加瀬英明 論集
日本では神々は森―杜のなかに、鎮まっている。
神が「鎮まる」という言葉は、英語にも、フランス語、ドイツ語にも、そのまま訳すことができない。西洋の神は日本の神々に対して、能動的であって、人々の生活に気のままに干渉するので、「鎮まる」ことなど考えられない。
ギリシャ神話にデュナミスという神格があるが、これが英語の「ダイナミック」の語源となった。また、ユダヤ・キリスト教の神は、聖書の「創世記」を読んでも、エデンの園を地響きたてて、歩きまわっている。
そこでアメリカや、ヨーロッパで日本の民俗信仰について話す時には、「鎮まる」という言葉を時間を費やして、説明しなければならない。
私はここで、また、天皇について触れなければならない。天皇は日本文化と同じように世界のなかできわめて特異な存在である。天皇なしに、日本文化を語ることはできない。
日本は多くの幸福に、恵まれてきた。天皇が権力の座から離れたことも、そうだった。そのために、天皇は究極的な、穢れのない清浄感を表わすようになった。天皇家は、日本国民の美意識の総本家となっている。
天皇も、鎮まっていらっしゃる。そこで、国民は天皇にご心配をおかけすることがないように、正しく生きるように努めなければならない。日本は思いやりと慮りの、安らかな国なのだ。
人間関係も、人々や相手にできるだけ心配や、負担をかけないようにつとめる。だから、自己を主張することを、できるだけ慎む。
日本では神も人も、受動的―受け身なのである。
神のありかたは、それぞれの国や地域の、政治文化と、人間関係を反映している。神は多分の人の姿に似せて、創られたといえる。
ユダヤ・キリスト・イスラム教の神は、ヨーロッパや、中東において絶対権力を握っていた政治権力者と似ている。そのカリカチュア―戯画を思わせると言ったら、意地が悪いだろうか。
サンマリノのカデロ駐日大使のインタビューに戻れば、編集部から「日本の天皇が今、百二十五代だといふことは、外国の方から見られていかがでせうか」とたずねられて、こう答えている。
「日本がこんなに長く、同じ文化システムで2667年も続いてゐるといふのは、とても不思議なことです。ギネスブックにも載ってゐるのは、御存知ですか。『日本の国は君主国であり、2667年続いてゐる』と、ギネスブックに出てゐます。日本のやうな国は世界にほかにないのです。」
さらに「親任状捧呈式などで、天皇陛下にお会ひになられた時の御感想はありますか」と問われて、こう述べている。
「たいへん感激いたしました。とてもおやさしい方です。権威的で近付きがたいイメージがあると思ふのですが、とんでもないことです。温かい心をお持ちになり、深厚で、物腰が柔らかでいらしたので驚きました。
去年、私とほかの国の大使5人をお食事にお招きいただいたことがありました。光栄なことに、私は天皇陛下の前に座らせていただきました。大きな国の大使がもっと離れた席にゐるのに、こんな小さな国が良い席に座らせていただいたので、感激しました。
宮殿もたいへん神秘的なところで、神宮や神社と同じやうに、シンプルで恭しい雰囲気がありました」
大使は「他の国々の王宮との違ひは何でせうか」という質問に対して、つぎのように答えている。
「かなり違ひます。欧州の多くの宮殿を訪れたことがありますが、派手な常呂が多いのです。豪華ですごくリッチな雰囲気です。もちろん華美ではありますが、中にはやり過ぎだと感じられる宮殿もあります。
でも、日本の場合はシンプル、エレガントで、心が落ち着きます。それは神宮・神社で感じるのと同じ感覚があります。皇居と伊勢の神宮や橿原神宮とは、何か通ずる所があるやうに感じられました」
私は新宮殿に何回かあがったことがあるが、神社と同じような雰囲気があるということに、気づかなかった。
日本では神と人とのあいだの境が、はっきりとしていない。だから、日本人のほうが、西洋人にくらべ、天に近い。
(8章 神道は新しい世界宗教であるエコロジー教だ)
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