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コラム …男の珈琲タイム
僕の体内には銀河鉄道が走っている。
それは僕がこの地球に命を授かったと同時に敷設された鉄道だ。
はてしなく遠い無窮の宇宙から100年くらいは旅してくるために、僕はこの一粒の水滴にすぎない地球という星に降りたった。
この銀河鉄道にはいくつもの駅がある。どれもこれも奇妙で不思議な名の駅ばかりだ。
何十回となく臨時列車も走った。
「生まれいずる悩みの駅」「あすなろの駅」「走れメロスの駅」「恋という錯覚と誤解の駅」「青春万歳駅」「団欒の日々駅」「離別惜別駅」「人生多毛作駅」「さよならのふるさと駅」「苦苦楽天の駅」「斬った斬られた政治駅」「汚れちまった悲しみの駅」等々。
停まる駅の数は涯しなく多い。
到着し、また走る。走るエネルギーは炎のように熱く、消費係数は相当なものだ。ふと片目を向けるともう一つの古い線路がある。すっかり錆ついてしまったトロッコの長方形が疲れきって置き去りにされている。
少年の日の透明な悲しみの蓄積がうなだれた形をして横たわっている。
僕は急に思いたって過ぎ去った昔の駅に向かった。忘れてきたやっかいな思い出をたぐってみたかった。思い出を拾いに行ったのだ。
しかし、どこの駅の遺失物置き場にもそんなものは時効になっていて、手を伸ばしても伸ばしても手には届かないところで消えていた。
叱られた少年のように僕はまた線路を歩いてもどってきた。
日々の小さな背信。薄い刃物のような裏切り。不確かな男と女。思い出の一つ一つの断片。それでも降る星のように小さな愛が僕の銀河鉄道を照らし続けている。
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