トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 『英霊の声』と『共産党宣言』の相似性
外交評論家 加瀬英明 論集
地方の方言が失われていることも、嘆かわしい。
標準語が明治以後に人工的につくられた言語であるのに対して、方言には血が通っている。標準語が全国を覆う、無機的なコンクリートであるとすれば、方言は有機的な言葉である。
いま地方の文化が、急速に失われつつある。全国が超薄型テレビのように、薄っぺらな文化に、変えられようとしている。
世界をみても、少数民族や、部族の言語が、毎日のように死滅するようになっている。日本でも、風俗として、英語の学習塾がさかんだが、おぞましいと言うしかない。かつて、マルクス、エンゲルスが、『共産党宣言』のなかで、資本主義が世界を平準化することを予見したが、グローバリゼーションは、祖先から受け継いだ生活文化を無惨に破壊している。
共主義は一時期、一部の人たちを麻薬のように陶酔させたが、思想として破産してしまった。マルクスとエンゲルスの学説は、昆虫社会の研究だったとしたら秀逸なものだったが、人間に適用したのが間違いだった。
三島由紀夫が没してから、四十年近くになる。私はふと、三島の『英霊の声』が、マルクスとエンゲルスの『共産党宣言』に酷似していると思った。
「人ら泰平のゆるき微笑みに顔見合わし、利害は錯綜し、敵見方も相結び、外国の金銭は人を走らせ (略)夫婦朋友も信ずる能わず いつわりの人間主義をたつき(註、生計)の糧となし 偽善の団欒は世をおおい(略)ただ金よ金よと思いをめぐらせば、人の値打ちは金よりも卑しくなりゆき(略)大義は崩壊し その窓々は欲求不満の蛍光灯に輝き渡り(略)雄々しき魂は地を払う」(『英雄の声』)
マルクス・エンゲルスが『共産党宣言』を発したのは、百六十年程前のことだった。
「ブルジョア階級は、歴史において、きわめて革命的な役割を演じた。
ブルジョア階級は、支配をにぎるにいたったところでは、封建的な、家父長的な、牧歌的ないっさいの関係を破壊した。彼らは、人間の血のつながったその長上者に結びつけていた色とりどりの封建的な絆を容赦なく切断し、人間と人間との間に、むきだしの利害以外の、冷たい『現代勘定』以外のどんな絆も残さなかった。彼らは、信心深い陶酔、騎士の感激、町人の悲哀といった清らかな感情を、氷のように冷たい利己的な打算の水のなかで溺死させた。彼らは人間の値打ちを交換価値に変えてしまい、お墨付きで許されて立派に自分のものとなっている無数の自由を、ただ一つの、良心をもたない商業の自由と取り代えてしまった。(略)
ブルジョア階級は、これまで尊敬すべきものとされ、信心深い恐れをもって眺められた全ての職業からその後光をはぎとった。(略)ブルジョア階級は、家族関係からその感動的な感情のベールを取り去って、それを純粋な金銭関係に変えてしまった。(略)
生産の絶えない変革、あらゆる社会状態のやむことのない動揺、永遠の不安定と運動は、以前のあらゆる時代と違うブルジョア時代の特色である。(略)一切の身分的なものや常在的なものは、煙のように消え、いっさいの神聖なものは穢され、(略)自分の生産物の販路をつねにますます拡大しようという欲望に駆り立てられて、ブルジョア階級は全地球を駆けまわる。(略)
ブルジョア階級は(略)、あらゆる国々の生産と消費とを世界主義的なものに作りあげた。反動家にとってははなはだお気の毒ではあるが、彼らは産業の足元から、民族的な土台を切り崩した。(略)物質的生産におけると同じことが、精神的な生産にも起る(略)民族的一面性や偏狭は、ますます不可能となり、多数の民族的及び地方的文学から、一つの世界文学が形成される。」
『共産党宣言』からの引用が長くなったが、ブッシュ大統領のアメリカが世界に対して進めてきた「グローバリゼイション」について書いたものとしても、そのまま適用する。
今日の世界をみると、マルクスとエンゲルスは洞察力に富んでいたといわざるをえない。『共産党宣言』の出だしをもじれば、資本主義という妖怪が世界を飲みこもうとしている。
ブッシュ大統領はアメリカ型民主主義を世界にあまねく広めることを、主張した。「ブルジョア階級を「アメリカによるグローバリゼーション」と読みかえれば、よくわかる。ブッシュ政権は行く手を阻む国の「政権交替」を叫んで、倒すことをはかった。マルクス主義者と同じ使命感に駆り立てられていたのだ。
しかし、マルクスとエンゲルスが、ブルジョアによる支配のもとで、プロレタリアが貧窮化していくと予言したのは、大きく外れた。先進国の労働者は、みんな豊かになり、貪欲な消費者になってしまった。
今日、私たちはマルクスとエンゲルスや、三島が予言した世界に生きている。
「徳の国富論」 十章 親を粗末にする者は国や人を愛せない
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