トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ コンビニを現代の具塚にしてはならない
外交評論家 加瀬英明 論集
自動販売機のいまいましさについては、すでにふれた。路上で食べ物を口にするのは卑しい行為だったのに、缶ジュースを買って歩きながら飲むのが、あたりまえの光景になってしまった。食物を感謝して頂くという日本の文化は、消滅する寸前にある。
料理店や、ファミレスや、居酒屋をはじめ、チェーン展開している食堂は、安さと便利さを謳うが、日本文化を破壊するする落とし穴の一種だ。見たところ小綺麗な料理を提供しているようでも、その大半は工場で量産され、電子レンジで解凍された“料理もどき”のものにすぎない。料理は人がつくるものであってきた。私はそうした店では、食べたいとおもわない。
チェーン展開する店の目的は、何よりも利潤をあげることであって、食材は均一化され、従業員の手間質、客単価まで、すべてのコストが緻密に計算されている。客をもてなす配慮どころか、従業員の笑顔ですらマニュアル化された、作り笑いにすぎない。
日常生活を支えている近所のスーパーや、コンビニで売られている食品の品揃えといったら、おびただしい種類にのぼる。しかし、その中身となると、野菜や肉や加工食品も、金儲けに熱心な大企業の手によって、大量に生産され、仕入れられるので、安価で提供されているにすぎない。だが、輸入食品中心の大量生産品は、化学調味料と保存在がまぶされているから、旨いはずがないし、質の安全も保障されていない。今日の人の食習慣がいかに貧しいものか、コンビニを覗けばすぐ分かる。
かつて中国の毒入り餃子が、消費者を震駭させた。しかし、冷凍食品を食べる習慣のない家庭にとっては、対岸の火事だったはずだ。
わが家ではこれまで冷凍食品を試したことが、1度もない。炊事を怠けようとする人々が手を抜くために、怪しげな冷凍食品や、レトルト食品が出まわっている。これでは食事というより、ただ空腹をみたすだけのエサである。慾深な大企業に食を預けて、操られる羽目になる。
二〇〇八(平成二〇)年には世界的な食糧危機が忍び寄っていることが、心配された。
その後、原油価格が急落したが、原油価格の急騰も食糧危機の原因とされた。化学肥料、殺虫剤も石油製品だし、農業機械や、漁船を動かすにも、石油がいる。ビニールハウスを暖めることも、食糧を輸入するにも燃料が必要だから、原油価格があがれば食糧不足を招くことになる。
二〇〇八年は、また、世界人口が7千3百万人増えて六十七億人になったという。オーストラリアで旱魃が続き、アメリカの穀倉地帯が長雨と冷気に祟られたのをはじめ、異常気象が発生した。穀物をバイオ燃料に転換したのも、元凶の一つとされた。どこまでが本当なのだろうか。その後、どのような対策が講じられているか、報道がない。
食糧危機というと、マルサスの『人口論』を思い出す。トーマス・マルサスは経済学者だったが、一七九八年に『人口論』を著して、人口は掛け算で増えてゆくが、食糧生産は足し算によってしか増えていかないから、そのままゆけば、人類が滅亡しかねないと説いた。
その時の世界人口は二億人台だった。今日では、七十億人近くまで増えている。
マルサスの時代に較べて、その後、化学肥料の登場や、品種改良によって、先進国では、穀物から野菜、果物、食肉、魚肉まで、ありあまるほど手に入り、安価に提供されるようになった。江戸時代の八百屋や、魚屋や、豆腐屋を想像したうえで、今日のコンビニや、スーパーに溢れている食品と比較してみればよい。そうしたなかで、人々はいっそう贅沢になり、アフリカなどの飢餓が報じられるかたわらで、大量の食糧が廃棄されている。
食糧危機の大きな原因の一つとして、中国、インド、ブラジルをはじめとする発展途上国が急速に豊かさを増して、生活水準を向上させていることもあげられた。
中世のヨーロッパで、天動説対地動説による世界観の対立があった。ついこのあいだまで、私たち豊かな先進国に住む者は、長いあいだ、遅れた後進国を“発展途上国“と礼儀正しく呼んでいきた。工業化で遅れをとった後進国は貧しく、車や電気器具や機械など大量生産財を売りまくる先進国を中心に世界が動いていくという、いってみれば現代の天動説を信じてきた。
いま、それを改めねばならない。私たちにとって、世界が逆さまになりつつある。二〇〇八年を例にとれば、日本、アメリカ、EU(ヨーロッパ共同体)の先進諸国の予想された経済成長が1、3%でしかなかったのに、発展途上世界は6、7%も伸びるとみられた。
発展しつくした先進国の繁栄は頭打ちになり、後進国がのびてきたと。生産性が上がれば、巨大な購買力が生まれ、新しい市場が出現する。そこを目ざして世界の富が流れこみ、経済の潮流が変わる。新しく生じた膨大な資源の需要で市場バランスがくずれ、資源大国である後進国が、ますます力をつけてゆく。
もっとも、二〇〇八年九月にアメリカのウォール街から始まった世界大不況によって、発展途上諸国の経済も打撃を蒙った。しかし、これは一時的なものだ。いまではもう発展途上国が貧しいと思うのは、地球が平らだと信じているのと変わらない。
げんに中国が外貨保有高で世界一になったとか、インドのタタ財閥が百二十億ドル(一兆二千億円以上)で、イギリス・オランダが所有していたコーラス製鉄や、名門自動車メーカーのジャガーや、ランドローバーを買収したなどという経済ニュースが多くなった。新聞をひらくと、ほうと驚かされる記事がたえない。
十一章 農業を再興し、食糧自給率を高めよう
バックナンバー
新着ニュース
- 島耕作、50年目の慶事が台無しに(2024年11月24日)
- 第31回さいたま太鼓エキスパート2024(2024年11月03日)
- 突然の閉店に驚きの声 スイートバジル(2024年11月19日)
- すぐに遂落した玉木さんの質(2024年11月14日)
特別企画PR