トップページ ≫ 社会 ≫ 社説 ≫ 軽減税率導入時にはインボイス(税額票)導入への道筋を
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この10月の内閣改造で自民党の税制調査会長が交代した。これは2017年4月に予定されている消費税の10%への税率アップ時に軽減税率を導入するという官邸の意向が反映されたものだろう。かつて自民党税制調査会といえば、政府にも存在した税調の答申など歯牙にもかけず、税制のドンとよばれた山中貞則元税調会長の「党税調は政府税調を軽視しない。無視する」と言っていた権勢も往年のものになったようだ。
軽減税率の導入については様々な懸案がある。まず対象を決める際、恣意的にならざるをえないということだ。現在、お酒を除く飲食料品が対象になると言わており、すべてを対象にした場合、約1.3兆円の税収の目減りが試算されている。しかし軽減税率が適用されると、われも対象であるべきだという主張は各種団体から当然出てくる。たとえば日本新聞協会は新聞購読料の軽減税率適用を訴えている。これは新聞という第四の権力を笠に着て、政府に対して圧力をかけている構図にも見えなくもない。もう一つの懸念は日本ではインボイス(税額票)が導入されていないため、事業者が適正な納税額を把握することができないという問題がある。消費税とは、企業が売上時に預かった消費税から仕入れの時に払った消費税を差し引いた額を納税する仕組みになっている。消費税率が均一の時は、企業の帳簿から税額を把握することができるが、税率が複数になるとそれが出来なくなるのだ。通常の請求書とは異なり、インボイス(税額票)は税率、税額のほか、事業者ごとに割り振られる登録番号や請求書の番号も書く厳格なものである。欧州各国の付加価値税(日本の消費税に相当)では長年にわたって導入されている。
なぜに日本ではインボイス(税額票)が導入されないのか。それは中小事業者の経理負担が増えるということ理由で、信頼性は劣るものの帳簿上の数値から消費税額を計算する帳簿方式をとってきた。加えて一定期間の売上が基準に満たない事業者を免税事業者にする制度や、小規模企業については実際の仕入れ額でなくみなしの仕入率を適用できる制度があるため、本来払うべき消費税を払わなくてよくなる益税という問題もある。
これらの問題はインボイス(税額票)を導入することで解決できるのだ。今回、公明党は簡易版税額票を提案している。これは従来の請求書をベースに軽減税率対象品目に印をつけ、納税額を計算する。自民税調も簡易方式でスタートし、欧州型の本格的な税額票は3~5年後に導入する方向だ。日本における帳簿方式、免税制度、簡易課税方式などは平成元年にわが国で消費税がスタートしたときの妥協の産物と言ってよい。その間欧米などでは売上高、税額を管理するコンピューターソフトが導入されて事業者にとっての事務負担は問題になっていない。まさに政治の意志が、事業者負担を錦の旗にして改革を進めてこなかった結果といえるのではないか。現代は無料の会計ソフトがクラウド(インターネット経由でソフトウェアを提供すること)で提供されている時代だ。日本も軽減税率を導入するなら同時に、ある一定の猶予期間ののち欧米型のインボイス(税額票)導入を正式に決めるべきである。そうすれば民間がその変化に対応したサービスを提供するであろう。平成元年からのしがらみを断ち切るのは今なのである。
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