トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ アメリカが予測するアメリカ経済の将来
外交評論家 加瀬英明 論集
私はホワイトハウスの正面にある小さな公園を挟んで、向いあっているホテルを、いつも常宿としている。ホワイトハウスに、大統領が滞在していれば、屋上に星条旗が、翻っているものの、まるで蛻の殻のように見えた。
アメリカは、いまだに世界最強の軍事大国であるのに、意志力が萎えてしまった。
2016年に大統領選挙が戦われて、翌年1月に、新しい大統領が就任するまで、眠れる巨人のような状態が続くのではないかと、不安に駆られた。
ワシントンの連邦議会議事堂のすぐわきに、『モノクル』(片眼鏡)という、一軒家のレストラン・バーがある。アメリカの政治関係者なら、誰でも知っている店だ。
ニ階建の木造の店で、上階がレストランになっており、一階のバーはいつも上下院議員のスタッフや、政権の中堅幹部で賑わっている。
私はワシントンを訪れるたびに、時間があれば、この店を覗くようにしている。
私も常連だから、店主や、バーテンが歓迎してくれる。
今回も、旧知の議会スタッフたちと落ち合って、浅酌した。
私は二日前に、ホテルの部屋のテレビで、早朝までNHKの総選挙の開票速報を、固唾を呑んで、リアルタイムで見ていた。自民党が圧勝して、脱原発を掲げた諸党が完敗したのに、喜んだ。
みな、私が保守派だということを知っていたから、安倍自民党が勝ったことを、祝ってくれた。
アメリカでは、アメリカ経済の将来について、かつてなく楽観していた。
アメリカは国際エネルギー機関(IEA)が、2019年までにシェールガス革命によって、サウジアラビアを追い抜いて世界最大の資源産出国となり、2035年までにエネルギーの自給自足を達成するだろうと、発表していた。
そうなれば、これまで中東などから石油を買うために、国外に巨額のドルを垂れ流してきたのが是正されて、国外に出た製造業が国内に戻ってくることが、期待されていた。
日本は国の存亡を、アメリカにひたすら頼りにして縋っているから、朗報である。
私はオバマ政権が、日本へのシェールガスの輸出を認めるように、希望した。といっても、日本へ輸出するためには、港湾施設などのインフラが整備されていないから、日本として積極的に投資するべきだと、述べた。
しばらく後に、チャック・ヘーゲル前上院議員の旧知のスタッフが、私たちに合流した。
ヘーゲル前議員はアメリカのマスコミによって、パネッタ国防長官の後任の最有力候補だとして、取り上げられていた。
共和党のヘーゲル前議員は国防通で、ネブラスカ州から選出されていたが、オバマ大統領とも親しく、超党派の起用という計算も働こうと、取り沙汰されていた。
へーゲル前議員のスタッフが加わったことから、今後の国防予算が話題となった。
「誰が次の国防長官になっても、もっとも重要な仕事は、国防費をどう削減するか、ということになるね」と一人がいうと、全員が頷いた。
そして、アメリカがエネルギー供給について、中東から乳離れすることになるという話に、戻った。
すると、また一人が、私に「アメリカが中東の石油を必要としなくなったら、今はペルシア湾の自由航行を護るために、第五艦隊を貼り付けているが、撤収することになるね。年間80億ドル(約8800億円)も、かかっている。第五艦隊を引き揚げたら、日本がそのあとを引き受けてくれるかね?」と、たずねた。
もちろん、日本にそのような用意がないことを、承知したうえで、私をからかったのだった。
これから、中東がさらに大きく揺れることになると、考えた。
オバマ政権が1期目の2011年に打ち出した、2025年までにアメリカの海軍力の60%をアジア太平洋に集結し、戦略の重点をアジアに移すという、「エイシアン・ピボット(アジアに軸足を移す)」戦略も、これから中東への対応に追われて、口先だけのものになるだろうと、思った。
アメリカの意志力が不在になると、日本はアメリカを、ひたすら大黒柱として頼んできたから、心もとない。
といっても、日本は国の基本である国防を、アメリカに委ねてきたから、アメリカをできるかぎり活用してゆかねばなるまい。
私は日米同盟の深化に努めるべきだが、それとともに、アメリカにいたずらに頼らずに、自立の度合を高めなければならないと、自分に言い聞かせた。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第1章オバマ大統領の凋落
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