トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 中国に見縊られたオバマ政権
外交評論家 加瀬英明 論集
オバマ大統領が、ブッシュ大統領が2期つとめたあとに登場すると、ワシントンにおける日本の存在感が、すっかり軽くなってしまった。
小泉首相が訪米した時に、ブッシュ(子)大統領と二人で、エルビス・プレスリーの真似をして、電気ギターでロックを歌う仕草をして悪戯た親密さは、すっかり過去のものとなった。
ワシントンでは、中国が今後も興隆を続けてゆくかたわら、日本が力を衰えさせてゆくと、ひろく信じられていた。アメリカの目と耳が中国へ向けられ、日本は片隅に追いやられていた。
中国が強い光を、放っていた。中国によって眩惑されていたために、オバマ政権は日本が中国を刺激して、波風を立てることを、嫌った。日韓の不協和音にも、苛立っていた。
2013年11月に、習近平国家主席の中国が、日本を威嚇するために、傍若無人に尖閣諸島のうえに、防空識別圏(ADIZ)をかぶせた。
アメリカはいちおう「受け入れることができない」と反発してみせて、グアム島からB52 爆撃機2機を発進させ、ADIZを横切らせたが、それだけのことだった。
私は台湾の李登輝総統(当時)が1996年に総統選挙を戦った時に、中国が、台湾独立派として見ていた李総統の再選を阻もうとして、訓練を名目として、台湾海峡にミサイルを撃ち込み、台湾を威嚇したのに対して、アメリカ議会が中国の挑発について、ただちに公聴会を招集したことを、思い出した。
今回はワシントンにおいて、そのような動きは、まったくなかった。台湾に対する関心は、すっかり失われていた。
その月のうちに、バイデン副大統領が東京、北京、ソウルを訪れることになっていた。
私は中国が尖閣諸島のうえにADIZを設けたのに、不満を表わすために、バイデン副大統領の訪中を延期すればよいと、期待した。
しかし、そのようなことはなかった。バイデン副大統領は予定通りに、東京をあとにして、北京へ向かった。
バイデン副大統領は、かねてから習近平国家主席と親密な関係を結んでいることによって知られていたが、北京における習・バイデン会談は、5時間に及んだ。安倍首相との会談時間よりも、二倍以上長かった。
中国が尖閣諸島のうえに、ADIZを設定したのは、オバマ大統領がシリアに制裁を加えるといったのにもかかわらず、逡巡して撤回したために、リーダーシップが揺らいでいるとみて、弱い大統領だと見縊ったからだといわれた。
12月26日に、安倍首相が靖国神社を参拝した。日本国内の世論調査によれば、日本国民の大多数が、首相の靖国参拝を支持した。
ところが、在日アメリカ大統領報道官が首相が詣でたのに対して、「失望した」と、述べた。これは、日本に対する、あきらかな内政干渉だった。
アメリカの主要なマスコミが、安倍首相を「極右」「ナショナリスト」「挑発的」といって、いっせいに批判した。
ワシントンは安倍首相を警戒し、猜疑心をもってみていた。「安倍」というと、「ナショナリスト」「反動」という非謗が、ついてまわった。
「ナショナリスト」は、アメリカでは“危険分子”という意味だ。アメリカが推し進めるグローバリゼーションを、壊すからだ。
小泉首相が在任中に、靖国神社を6回にわたって参拝したが、ブッシュ(子)政権はただのひと言も、不満を表明しなかった。
それまで、私が親しんできたアメリカが、このようなことを、行なうはずがなかった。アメリカが、変わったのだった。
オバマ政権は安倍内閣が発足してから、警戒心をいだいてきた。
翌年、クリントン政権のもとで国防次官補をつとめたジョセフ・ナイが、「安倍首相の防衛政策を高く評価するが、1930年代の包装紙に包まれているのが、問題だ。この古びた包装紙がなかったら、21世紀にふさわしい内容だ」と論評したが、ワシントンの雰囲気を巧みに要約していた。「1930年代」は、日本の軍国主義時代を意味していた。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第1章オバマ大統領の凋落
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