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外交評論家 加瀬英明 論集
2014年3月に、オバマ大統領はまた足を掬われて、大きくよろめいた。
プーチン大統領が武力を行使して、クリミアに襲いかかって、ロシアに強引に併合した。
それまで、冷戦が終結した後に、中東、アフリカにおいて紛争が絶えず、アジアにおいて緊張が昇っていたが、ヨーロッパでは平和が続くものと思われていた。
プーチン大統領は、オバマ大統領が前年夏、シリアのアサド政権が「レッドラインを越えた」といって、制裁を加える発表をしながら、臆して取りやめたことから、アメリカが動かないと軽くみて、クリミアに乱入した。
オバマ大統領は、プーチン政権がクリミアを呑みこんだ直後に、ロシアに対する経済制裁を発表したものの、ごく軽いものでしかなかった。
そのために、かつてセオドア・ルーズベルト大統領(第26代、在任1901年~09年)が、「外交は太い棍棒を持って、優しい声で話せ」と戒めたが、オバマ大統領は口ばかり達者で、小枝しか手にしていないと、いわれた。
オバマ大統領は「チェンジ」と、「イエス・ウイ・キャン」と約束することによって、ホワイトハウスの主人になったが、中東において、リビア、シリア、イラクが収拾しようがない混乱に陥って、周辺の諸国に拡がることが懸念され、一方でロシアがウクライナからクリミアを切り取ることによって、ヨーロッパ情勢が一変するという、大きな変動を招いた。
オバマ大統領は、シリアに制裁攻撃を加えるといった時に、軽々しく「レッドライン」というべきでなかった。「レッドライン」が、「イエローライン」どころか、侵略を誘う「グリーンライン」になりかねない。
このために、ワシントンは日米同盟を重んじていることを示す必要に、迫られた。オバマ大統領は、もし、中国がロシアを真似して、尖閣諸島を奪うようなことがあったら、アメリカの世界戦略が崩壊することになると、恐れた。
ホワイトハウスは慌てて、オバマ大統領が4月に訪日するのに当たって、東京に一泊だけする予定であったものを、日米同盟を補強するために、国賓として二泊三日で訪問する日程に改めた。
オバマ政権は、安倍首相が靖国神社を参拝して、不必要に中韓両国を刺激したことによって、機嫌を損ねていた。
そして、安倍首相が、アメリカが先の大戦の正しい勝者だったという“戦後レジーム”を壊そうとしていると疑って、不信感を向けていたが、そんなことに構っていられなくなった。
オバマ政権にとって、風向きが変わった。私はアメリカが軽くなったと、あらためて溜息をついた。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第1章オバマ大統領の凋落
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