トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ ロシアのクリミヤ強奪、反故にされた四カ国議定書
外交評論家 加瀬英明 論集
ソ連が崩壊した後に、それまでソ連の一部であったウクライナは、核兵器を所有していた。
ウクライナがソ連邦の構成国であったあいだは、名目的な独立国でしかなかったから、ウクライナにあった核兵器は、クレムリンの管理下にあった。
ところが、ソ連邦が消滅すると、ウクライナが名実ともに独立国となったために、核兵器保有国が一ヵ国、増えてしまった。
そのために、1994年にクリントン大統領、エリツィン大統領、イギリスのメジャー首相と、ウクライナのクチマ大統領が、ルーマニアの首都ブカレストに集まった。
ウクライナが核兵器を放棄するのと引き換えに、将来、もし、ウクライナが外から侵略を蒙ることがあった場合に、アメリカ、ロシア、イギリスの三ヵ国が、ウクライナを守るために戦うことを誓約する、四ヵ国議定書に調印した。
2014年の時点で、この四ヵ国協定は有効だったが、ロシアはもちろん、アメリカも、イギリスも顧みようとしなかった。
オバマ大統領とケリー国務長官は、ロシアがクリミアで分離独立を問う住民投票を行なわせたことが、「国際法違反」であると、繰り返し非難した。
しかし、アメリカや、ヨーロッパ諸国はインドネシアの一部であった東チモールが分離独立を求めると、インドネシア政府が強く反対するのを無視して、1999年に、国連を動かして、強引に住民投票が行なわれ、東チモールを独立させている。
インドネシアは1949年に独立を勝ち取るまで、東チモールを除いて、オランダによって植民地として統治され、人口の圧倒的多数がイスラム教徒であったのに対して、東チモールはポルトガルの植民地であって、住民のほとんどがキリスト教徒だった。
強国は都合のよい時だけ、国際法を振りかざすということを、教えている。
国連は、今回のウクライナ危機に当たって、何の役にも立たなかった。国連は麻痺したように、動くことができなかった。ロシアが安保理事会で、拒否権を持っているからである。
日本では「国連中心主義」という言葉が、長いあいだ罷り通ってきたが、“役に立たないものを中心とする主義”だった。
国連は、最高意思決定機関である安全保障理事会を構成している五つの常任理事国である、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の意志が一致しないかぎり、まったく動くことができないから、中心を欠いた組織である。
国連の歴史を、少しでも知っている者なら、五つの常任理事国の意志が一致することがめったにないことを、承知しているはずだ。
日本が万一、中国の侵略を蒙った場合には、国連は動くことができない。中国が安保理事会の常任理事国であって、かならず拒否権を行使するからだ。
これまで、日本は国連が中心を欠いているという現実に、目を向けることなく、中心として、頼ろうという、甘いというよりも、愚かな幻想に耽ってきた。
万一の場合には、協定も、国際法も、国連も、頼りにならない。そこで、「諸国民の公正と信義に信頼」(日本国憲法前文)して、日本の安全を保つことはできない。
戦後の日本国民の平和願望は、祈りであるが、平和は創りだすものであって、祈りや、呪いによって、もたらされない。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第1章オバマ大統領の凋落
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