トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ この先30年、アメリカを追い越す国はあるのか
外交評論家 加瀬英明 論集
これまで、アメリカは振り子のように、果敢に外へ向かう時期と、羹に懲りて、内に籠る時期が、交互に繰り返されてきた。
いま、アメリカはアフガニスタンとイラクで受けた深い傷を、舐めているところだ。
アメリカはローラーコースターか、蛇腹を忙しく拡げたり、縮めたりして演奏する楽器アコーディオンに似ている。
第二次大戦後のアメリカの歴史を振り返ってみると、アメリカが国外の現実を変えようとして打って出て、干渉する時期と、それに懲りて、内に退く時期が交互してきた。
アメリカは星条旗を模した赤いストライプに、大きな星が一つついたシルクハットを被って、燕尾服を着た「アンクル・サム」によって、象徴されてきた。今様の日本語でいえば“ゆるキャラ”である。
このアンクル・サムが、せわしくアコーディオンを弾奏しているところを、想像していただきたい。
アメリカは外へ向かって力を振るっていると思うと、そのうちに勢いあまって、失敗して縮まる。
では、いまから20年、いや、30年後の世界を考えてみよう。
いったい、アメリカを科学技術において、追い越す国があるだろうか?
アメリカよりも旺盛な、イノベーションの力を持っている国が、これから出てくるだろうか。
中国に、そのような力はまったくない。EUや、日本が、アメリカと並ぶことも、考えることができない。
現在、アメリカは経済規模で、中国の2倍、中国につぐ日本の3倍に、当たっている。
20年後に、中国の現体制がまだ続いているものか、保証がない。圧制によって体制を維持している国は、政治的な激震に見舞われると、経済が根底から揺らぐ脆弱さを内包している。中国は天安門事件の亡霊によって、祟られている。
そのうえ、中国では巨大人口の高齢化が急速に進んでゆくが、アメリカは移民によって経済規模が増大するとともに、高齢化の速度が緩やかなものにとどまる。
アメリカは、ほどなく安価なシェールガスとシェールオイルによって、世界最大の資源産出国となって、エネルギーの自給自足を達成することになる。
そうなれば、これまで原油を中東をはじめ海外から輸入して、そのためにドルを垂れ流してきたアメリカが、石油、天然ガスの輸出国に転じることになる。
アメリカにおけるユートピアイズムは、アフガニスタン、イラクにおいて深い傷を負ったにもかかわらず、少しも衰えていない。
いま、アメリカは軍事的に内に籠っているが、世界経済をアメリカ化しようという衝動によって、駆られていることに、変わりはない。
今後、アメリカが畏縮してゆくことになると決めつけるのは、まだ早い。
アメリカは世界で、珍しい国である。大統領が一期4年か、あるいは二期8年つとめれば、次の新しいリーダーのもとで国家が甦り、再出発することができるという、幻想にとらわれてきた。
新しい大統領が就任するたびに、「新しい出発」といわれる。
オバマ大統領も、このような幻想から生まれた。他の国であれば、政治は、国民が顔を見慣れた政治家が行ない、フランス、ロシア革命のような革命が起こらないかぎり、御一新はありえない。
もっとも、アメリカはアフガニスタンと、イラク戦争によって受けた傷が深いために、向こう10年あまりは、内に籠ることになるだろうと思う。
それに、アメリカが外へ向かうためには、かつてのソ連のような、アメリカを脅かす強大な敵が、出現しなければならない。
今後、アメリカ国民が中国の脅威を、どのように認識するかということに、かかっていよう。
そこで、私たちは中国に対する戸締りを、急いで固めつつ、日本を防衛するのに当たって、アメリカをできるだけ捲き込めるように、努めてゆかねばならない。
いま、就任時に天空のきわみまで駆けあがった、オバマ大統領の人気が、地にたたきつけられている。
アメリカが再出発するのには、2016年11月に大統領選挙の投票が行なわれ、翌年1月に新しい大統領が誕生するまで、待たなければならない。
それまで、アメリカが活力を取り戻して、蘇生することは、期待することができない。もっとも、それも、次期大統領が誰になるのかということに、かかっている。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第2章アコーディオン国家・アメリカ
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