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外交評論家 加瀬英明 論集
アメリカの大統領は、本来の言葉どおりの指導者である。かつての王に、近い。
閣僚も、その下にいる政権幹部も、プレジデンシャル・アポインティ(大統領任命官)と呼ばれて、大統領によって任命されて、その地位にいるから、全員が大統領の代理人である。
日本は歴史を通じて合議制をとってきたから、「指導者」という言葉も、「独裁者」という言葉も、明治に入るまで、存在しなかった。二つの言葉はともに、いわゆる明治訳語である。
日本の閣僚は、首相の代理人ではない。だから、日本では首相が与党の支持をとりつけるために、頻繁に内閣を改造して、閣僚を入れ替えなければならない。
そこで、アメリカでは、日本と大きく異なって、大統領の個人としての能力や、資質が、何よりも重要となる。
2016年の両党の大統領候補が誰になるか、まだ、予想するのは難しい。
アメリカの大方の政治専門家と、マスコミの予想によれば、民主党はビル・クリントン元大統領の夫人であるヒラリー・クリントン前国務長官、共和党はブッシュ前大統領の弟のジェフ・ブッシュ元フロリダ州知事の両者による一騎打ちになると、みられている。
9月に入って、ヒラリー・クリントン元大統領夫人はオハイオにおいて、大統領選挙に出馬する意欲をみせた。
アメリカでは、1989年からブッシュ(父)が第42代大統領として4年、ビル・クリントンが第43代目として二期8年、ブッシュ(子)が第44代目として二期8年、三人合わせて20年にわたって、大統領をつとめた。
民主党では、ヒラリー夫人が“巨人ゴリアテ”であって、2016年にヒラリーに挑戦できる“ダビデ少年”は現われないと、いわれている。
2014年5月に、『ワシントン・ポスト』紙と、ABCテレビが発表した、次回の大統領選挙をめぐる共同世論調査によれば、共和党の有力候補としてジェフ・ブッシュが、首位に立った。
二人が大統領選挙を争った場合を仮定すると、ヒラリー夫人の支持率が53%だったのに対して、ジェフ・ブッシュが41%だった。
ジェフ・ブッシュがまだ61歳であるのに対して、ヒラリー夫人は67歳だった。
もし、ヒラリー夫人が大統領として当選すれば、レーガン大統領が就任した時よりも、一歳だけ年下になる。
それにしても、アメリカは人口が3億1600万人もあるというのに、有力な大統領候補が他にどこにもいない、というのだろうか?
アメリカは世界の民主主義の手本であるようにいわれているが、クリントン家とブッシュ家の二つのファミリーが争うというのでは、パロディのようではないか。
これでは、アメリカの政治に新鮮なアイディアや、新しい方向性をもたらすことができないことになる。
アメリカの一部の識者が指摘するように、アメリカの政治制度が硬直化してしまって、疲弊しているのだろうか。
もっとも、2008年に民主党の大統領候補指名をめぐって、オバマ上院議員と、ヒラリー上院議員が鍔迫り合いを演じた時も、二人のあいだには政策の違いが、ほとんどなかった。二人とも、一期目の上院議員をつとめていたが、ブッシュ(子)大統領のイラク戦争を支持した。
経済政策も、巨大企業の利益を代弁するもので、ホワイトハウス入りしたい二人の個人的な野心が、熱戦を繰りひろげただけのことだった。
結果は、オバマ上院議員のほうが、弁が立っていたために、勝利を手にした。
オバマ議員は、第二次大戦前から大きな力を持ってきた、イリノイ州シカゴの「シカゴ民主党マシーン」によって支えられた。一方のヒラリー夫人は、夫のビルの「クリントン・グローバル・イニシアティブ基金」という集金マシーンが働いて、全米の大企業、弁護士事務所(アメリカでは弁護士は、巨額の報酬を手にする)、大手ファンドや、銀行から、潤沢な政治資金を、掻き集める能力を誇った。
アメリカの大統領選挙は、マスコミをうまく使って、虚像をつくるのと合わせて、金次第なのだ。
選挙に勝つためには、全米にわたって選挙事務所を開設して、運動員を動かし、まるで新商品を売り込むように、全米のテレビのコマーシャルに、巨額の金を投入しなければならない。
ブッシュ家も、テキサスの石油産業や、サウジアラビア・コネクションをはじめとして、集金能力において、劣らない。
全米から政治資金を集める仕組みを、”ポリティカル・パーティ・マシーン“というが、クリントン家と、ブッシュ家の他には、この仕組みに入り込むことができない。そのために、二人が争うことになれば、二つの家がアメリカの政治を、牛耳ることになる。
アメリカの政治は、大企業によって支配されている。
2014年の商務省の報告書によれば、2013年に企業の純利益がGDP(国内総生産)に占める比率が、大恐慌の1929年以後で、最高に達した。そのかたわら、従業員の報酬が、企業の売り上げに占める比率のほうは、1948年以後で最低となった。
次の大統領選挙の投票日まで、まだ、2年あまりある。それまでに、内外の情況がどう変わるか分からないが、もし、ヒラリー夫人が出馬しない場合には、民主党はバイデン副大統領を擁立する可能性が、高いといわれる。
バイデン副大統領は、跡を取りたがっている。孤高で、議会指導者と会うことを好まないオバマ大統領にかわって、バイデン副大統領が議会との折衝を引き受けてきたために、民主党の主要な議員や、指導者ときわめてよい関係を結んでおり、ヒラリー夫人が出馬をあきらめる場合には、党から推されることになろうと、みられている。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第2章アコーディオン国家・アメリカ
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