トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ アラブを混乱に陥れたオバマ大統領の遇策
外交評論家 加瀬英明 論集
それにしても、オバマ大統領が二期をつとめて、55歳の若さで引退した後に、いったいどうなるのか、人々が話題とするようになっている。
どの大統領も引退すると、まず回想録を執筆して、数百万ドル(数億円)を手にすることになる。私も、オバマ大統領の回顧録が出版されたら、読みたいと思う。
歴代の大統領をみると、クリントンはクリントン財団をつくって、政治的に活発に活動しているし、ブッシュ父子大統領も、まだ人望がある。カーター大統領は海外に大統領特使として、しばしば出向いて、話題を呼んでいる。
アメリカには王室がないから、引退した大統領が王族に当たる。
ところが、オバマ大統領は在任中も親しい友人がいなかったし、海外のリーダーと親しくなることもなかった。引退後は影響力もなくなって、誰にも相手にされずに、孤独な日々を送るうちに、消えてしまうことになるのだろうか。
たった、三年前まで、オバマ政権は順風満帆であるようにみえた。
オバマ政権は、四年前にチュニジアで、“アラブ民主革命”が始まると、アメリカのメディアによって、“アラブの春”と呼ばれたが、中東に民主主義をもたらすことになると、期待した。
アル・カイーダは、退潮にあった。オバマ大統領はその前年の2009年に、エジプトを訪れて、カイロ大学で演説を行ない、エジプトのムバラク政権を見離した。
オバマ大統領は、この演説のなかで、「権力は上からの強制によらず、国民の合意によって、行使されなければならない。政権は少数派の主張も尊重し、妥協を恐れることなく、寛容の精神をもって、国民に接しなければならない」と述べた。
この結果、エジプトにおいてナセル大佐がファールーク王制を倒してから、58年間にわたって続いた軍事政権が倒れ、自由な選挙が行なわれることによって、中東全域にわたるイスラム原理主義の組織である、ムスリム同胞団が政権を握った。
オバマ政権は、中東に民主化がもたらされると、楽観した。オバマ大統領はエジプトの選挙結果を、ヒラリー・クリントン国務長官とともに、「中東にとって新しい出発点となる」と、称賛した。
そのために、オバマ政権はアメリカ海軍力の60%をアジア太平洋に移して、2020年までにアジアに展開するという、アジアに軸足を置く「エイシアン・ピボット戦略」を、打ち出した。
ところが、中東は“アラブの春”によって安定を失い、大混乱へ向かっている。
エジプトでは、モルシ新大統領のムスリム同胞団による政権が、イスラム原理主義政策を打ち出したために、エジプト国民の不満が強まって、軍部がクーデターによって、政権を掌握した。
中東イスラム圏は、サウジアラビアなどが援けるスンニー派と、イランが支えるシーア派のイスラム教の二大宗派による、血で血を洗う抗争が、シリアとイラクにおいて激化して、大きく揺れている。
シーア派のイランが、シーア派に属するシリアのアサド政権と、イラク国民の大多数を占めるシーア派と、レバノンのシーア派民兵であるヒズボラを援け、サウジアラビアなどの湾岸産油国や、エジプトをはじめとするスンニー派諸国が、それに対抗して、シリア反対制勢力を支援してきた。これまで、アメリカはサウジアラビアなどの後盾となってきた。
これから、アメリカは中東で、手一杯になってしまおう。もうすでに「エイシアン・ピボット戦略」は、絵に描いた餅に近い。
オバマ政権は外交が八方塞がりとなるなかで、それまで犬猿の仲だったイランとの関係を修復することによって、人気を回復しようとした。
オバマ大統領は、稚拙だ。1979年に、ホメイニ師のイランが、テヘランのアメリカ大使館を占拠して以来、アメリカはイランを敵視して、接触することさえなかった。
2013年に、オバマ大統領がイランのハサン・ロウハーニー大統領と、ホワイトハウスの執務室から、電話をとって会話を交わしたのをきっかけとして、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国を誘って、イランと協議して、2014年1月からイランに対する経済制裁を、緩和することになった。
これは、あきらかに人気を回復するために、1972年のニクソン大統領による劇的な米中和解の再演を、狙ったものだった。
だが、イランは冷戦時代の中国と、まったく異なる。アメリカも、毛沢東の中国も、ソ連に対抗したいという夢を、みていた。両国にとって主敵は、ソ連だった。
ところが、アメリカとイランには、共通する主敵がいない。イランの主敵は、アメリカなのだ。
それに、ニクソン大統領の知恵袋で、大統領特別補佐官で、米中接近を演出して、世界を驚かせた。キッシンジャーもいない。ニクソンがアイゼンハワー政権の副大統領として、外交を現場で学んでいたのに対して、オバマは外交のズブの素人である。
オバマ大統領は愚かだとしか、思えない。イランの宗教的指導者による政権は、長年にわたる経済制裁によって締めつけられて、苦しんでいたところだった。
アメリカがイランとの和解を進めて、イランが息を吹き返すのに、手を貸していることに対し、これまでアメリカの盟友であった、サウジアラビアをはじめとするスンニー派諸国は、アメリカに対する不信感を、募らせている。
イランが核兵器開発を放棄するとは、まったく考えることができない。もし、イランが核を持てば、サウジアラビアは核武装すると公言している。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第2章アコーディオン国家・アメリカ
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