トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 神によって与えられたアメリカという土地
外交評論家 加瀬英明 論集
アメリカは理想主義を対外政策にすえて、しばしば世界に介入するが、それができるのも、アメリカが二つの広大な海によって守られた、島国だからだ。アメリカは、お節介好きな国だ。お節介を焼くのが、国民性の一部となっている。
これは、清教徒が東海岸にはじめて上陸した時にいだいていた、理想主義から発しているものだ。アメリカの行動様式を理解するためには、アメリカの外交が、なぜ、理想主義によって、駆り立てられてきたのか、アメリカの生い立ちを知らねばならない。
一国の国民性と、行動様式は、何よりも地理的な条件と、歴史によってつくられている。
もし、アメリカがヨーロッパのように、力がある国々が犇めいて競い、しばしば戦ってきた場所にあったとすれば、現実から避難した理想主義によって、取り憑かれることはなかったはずだ。
イギリスと戦った1812年の戦争が引き分けに終わった後に、アメリカの“一強時代”が、北アメリカ大陸で続いた。
アメリカは地図を見れば、南でメキシコと接し、北にカナダが拡がっている。ロシアが西から東まで、世界最大の面積を占めているが、アメリカとカナダはほぼ同じ面積であって、それぞれ、国土の広さでロシアに次いでいる。
南のメキシコのさらに南に、太平洋と大西洋よって挟まれた回廊のように、中米があって、小国が連なっている。
カナダは、いまでも人口が希薄で、3500万人あまりでしかないし、メキシコをはじめとして、中米諸国も、アメリカに深刻な脅威をおよぼすような力がなかった。
ここで、アメリカという、不思議な国の成り立ちについて、語ろう。一言で言えば、アメリカは、突拍子もない国なのだ。
アメリカ合衆国史が、イギリスから102人の清教徒が、迫害を逃れて、1620年に帆船「メイフラワー」で、アメリカの東海岸に到着したことから始まることは、よく知られている。
「メイフラワー」は、全長が30メートルあまりの帆船だったが、66日もかけて大西洋を渡って、現在のマサチューセッツ州プリマスに着いた。厳しい航海だった。
清教徒はイギリス国内で、同じ新教のイギリス国教会によって、激しい弾圧を蒙っていた。
ところが、これらの清教徒は、南アメリカ大陸を占領したスペイン人や、ポルトガル人のように、本国のために富を求めて、大西洋を渡ったのではなかった。
そのあとに続いた、他のキリスト教宗派に属していた人々も、聖書のどこをめくってみても、アメリカ大陸が存在することは書かれていないのに、宗教的な熱狂に駆られて、新大陸が「神によって約束された地」であると固く信じて、新しい天地に渡った。生まれ育った祖国と、いっさいの縁を断ち切って、ヨーロッパを出発したのだった。
旧約聖書に、『出エジプト記』がある。イスラエルの民が、預言者であるモーゼによって導かれて、奴隷として使役されていたエジプトを脱出し、神によって約束された地を目指したことが、記録されている。
『出エジプト記』は、「主が、その民を聖なる幕屋に導かれ、主が贈られた地に住まわせられた」(15章13節)と、述べている。大西洋を渡って、新世界へ向かった人々は、自分たちが『出エジプト記』を再演しているのだと、みなした。
宗教的情熱が、アメリカの産みの親となった。アメリカは信仰によって、築かれた国だ。開拓者たちは、地上の天国をつくろうと決意して、渡ってきた。
スペイン人や、ポルトガル人が物質的な欲望に駆られて、南アメリカ大陸に渡ってきたのと、対照的だった。
新大陸に共同体をつくったアメリカの人々は、アメリカが他に比類のない新しい社会でならなければならないと、信じた。
このように、アメリカが神によって与えられた地として出発したことが、アメリカという国の鋳型となった。この生い立ちが、アメリカのDNA(遺伝子)となっており、今日でも、国民の精神を形成している。
今日、ヨーロッパでは宗教離れが進んで、どこへ行っても、教会の大伽藍は観光施設にすぎなくなってしまっている。
だが、アメリカ国民はいまだにアメリカが新天地であると信じており、ヨーロッパと違って、キリスト教への信仰心が篤い。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第3章お節介で不思議な国・アメリカ
バックナンバー
新着ニュース
- エルメスの跡地はグッチ(2024年11月20日)
- 第31回さいたま太鼓エキスパート2024(2024年11月03日)
- 秋刀魚苦いかしょっぱいか(2024年11月08日)
- 突然の閉店に驚きの声 スイートバジル(2024年11月19日)
- すぐに遂落した玉木さんの質(2024年11月14日)
特別企画PR