トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 黒人奴隷を鞭打つ音を聞きながら起草された「独立宣言」
外交評論家 加瀬英明 論集
新大陸に着いた人々は、敬虔だった。万人が神の前で平等であるという、新教の協議を信じていたが、これは白人にだけにあてはまるものだった。
入植者たちは「神から与えられた地」であると信じた新大陸に着くと、万能の主から贈られた新天地であったから、土地であれ、原住民の生命であれ、何であれ、すべて恣に奪った。原住民は人の形をしていたものの、動植物の一部でしかなかった。
イギリスの高名な著述家として知られる、セシル・チェスタートン(1879年~1918年)は、『合衆国の歴史』(邦訳『アメリカ史の真実』祥伝社刊)のなかで、新大陸に上陸した白人にとって、「インディアンはできるかぎり早く、駆除すべき害虫と変わらなかった」と、述べている。
ヨーロッパから新大陸に渡った人々は、白人至上主義を頑なに信じていた。入植した初期のころから、黒人奴隷を伴っていた。黒人と違って、インディアンは従順でなかったから、奴隷に適さなかった。
『大英百科事典』として知られる『ブリタニカ国際大百科事典』は、北アメリカ大陸の「十三植民地の形成と発展」が、「先住民インディアンの『清掃』と、ヨーロッパ人年季契約奉公人と、アフリカ人奴隷の『植民』を、前提として行なわれた」と、述べている。
入植した初期には、年季奉公人がいたが、じきにいなくなった。
ルネサンスは、大航海時代を到来させた。そのあとに続いた啓蒙の時代は、“人間中心の理性の時代”として称えられたものの、白人が優位に立ち、世界を理性を備えた白人と、生まれながらに蒙昧で、哀れな未開人に二分した。
1719年に発表された冒険小説『ロビンソン・クルーソー』では、銃を手にしたクルーソーが、フライデーと孤島で出会うが、二人の関係はフライデーが両手でクルーソーの足を抱えて、自分の頭の上に乗せることによって、恭順の意を示す場面から、始まっている。
アフリカから拉致されてきた黒人奴隷が、南北アメリカ大陸において、大量に酷使されるようになったのは、大航海時代が到来したことによって、白人がアフリカ大陸を意のままに収奪し、南北アメリカ両大陸を占拠するようになってからだった。
アメリカにおいて奴隷制度が廃止されたのは、いまから150年前の1865年のことでしかない。日本に当てはめると、明治元年のわずか3年前のことだった。
とくに、ヨーロッパが「啓蒙の時代」に入ってから、北アメリカ大陸における労働力の需要が大きく伸びて、黒人奴隷の数が急増した。
奴隷は家畜と同様に、扱われた。牛や、馬よりも、安価に運ぶことができたし、牛馬よりも、寿命が長かった。
アメリカで南北戦争によって、奴隷制度が廃止されるまで、アフリカから700万人にのぼる黒人が捕えられ、鎖につながれて、狭い船倉に閉じ込められ、劣悪な条件で大西洋を渡って、奴隷として酷使されたと、推定されている。
私は1980年代に、ベストセラーになった小説『ルーツ』の著者のアレックス・ヘイリーと、ロスアンジェルスで会食したことがあった。
現代の黒人の主人公が、自分のルーツをアフリカまで溯って調べる物語であるが、先祖がアフリカの奥地の集落で幸せに暮らしていたところを、白人によって捕えられ、奴隷として売られて、アメリカに攫われてくる。テレビドラマ・映画化されて、全世界でヒットした。
私はヘイリーに、ヘイリーという姓がどうしてついたのか、たずねた。すると、「奴隷解放令によって解放された時の、最後の奴隷主の姓ですよ。スミス家の奴隷だったらスミス、スミス家から、ジョンソン家に売られていったら、ジョンソンになりました」という答えが、戻ってきた。
トマス・ジェファーソン(アメリカ第3代大統領)の手によって、1776年に起草されたアメリカ独立宣言は、「全ての人間は平等に造られ」「生命、自由、幸福の追求」の不可侵の生与の権利を持っていることを、高らかに謳っている。今日にいたるまで、アメリカの大きな誇りとなっている。
ところが、人権という概念が、黒人奴隷や、原住民に、適用されることはなかった。
ジェファーソンモ生涯にわたって、多数の奴隷を所有して、売り買いしていた。記録によれば、ジェファーソンは200人を超す奴隷を所有していた。奴隷の子は、7、8歳になったころに、母親から引き離されて売りに出され、綿花畑で早朝から夜遅くまで、働かされた。
おそらく、アメリカ独立宣言の高邁な文言は、農園で働く黒人奴隷が、鞭打たれる音を聞きながら、書かれたものだった。
このあいだも、白人が西へ西へと幌馬車を連ねて、入植するにしたがって、原住民を手当たり次第、大地を血に染めて殺戮し、彼らが神々から与えられていた土地を、つぎつぎと奪っていった。
日本国憲法は、フィラデルフィアで「独立宣言」が発せられてから、170年後に公布されたが、マッカーサーの総司令部がこの独立宣言を下敷きにして、日本のためではなく、アメリカのために、日本に強要したものだった。日本人を眼中に置いたものでは、なかった。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第3章お節介で不思議な国・アメリカ
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