トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 「合衆国」は「合州国」の誤訳
外交評論家 加瀬英明 論集
もっとも、独立を宣言したといっても、それぞれの州が独立国のようなものであり、新しく生まれたアメリカ合衆国に、大統領、政府、連邦議会などが置かれていたものの、今日のEU(ヨーロッパ連合)に近かった。
EUはブラッセルに、大統領がいて、加盟国から選出される議員が構成する議会が設けられているが、誰も、ヨーロッパの首都として見なすことがない。それぞれの加盟国が主権国家であるから、国家というのには、ほど遠い。
日本では「ユナイテッド・ステイツ」を、なぜか「合衆国」と、「衆」を用いて訳している。これは、あきらかな誤訳である。
正しくは、「合州国」と訳すべきである。それぞれの州が独自の州法を持ち、州知事の指揮下にある州兵が存在している。
今日でも、州によって税率が異なるから、州へのタバコ、アルコール飲料などの持ち込みに制限があって、州境にときどき臨時の税関が設けられ、抜き打ち検査が行なわれる。
私は大統領候補を選出する民主党全国大会に、招かれたことがある。
各州の代表が立ち上がって発言するたびに、かならず「主権国家である(州名)州を代表して……」と前置きするのに、驚いたことがあった。
独立宣言を発した時には、すでに人口が西へ向けて拡散しはじめて、南東部から南部までのびるアパラチア山脈の西側にも、入り込んでいた。メイフラワー号に乗った清教徒たちが東海岸に上陸してから、150年がたっていた。
新世界であることに変わりなかったが、ジョージ・ワシントンや、トマス・ジェファーソンたちは、“ジェントルマン“と呼ばれ、ヨーロッパの貴族階級を真似て、首に絹のスカーフを巻き、丈がある上着を着て、白銀の鬘をかぶっていた。ジェントルマンたちは教養人であって、農民や、労働者たちのように、肉体労働にたずさわらなかった。
それでも、労働者がこれらのジェントルマンと呼ばれた人々に出会うと、地位や、教養や、収入、服装が異なっていても、人間として対等だとされたから、ヨーロッパの職人や、労働階級に属する人々のように、おどおどして、卑屈になることが、まったくなかった。
アメリカでは、庶民も気位が高く、誰もが平等だという意識を、強くもっていた。仕事が、旧世界と変わらない召使いであったとしても、召使いと呼ぶことは、許されなかった。
白人の女性は、女中の仕事をしていても、「メイド」と呼んではならなかった。そのかわりに、「ヘルプ(お手伝い)」と呼ばれた。家庭のなかの黒人奴隷の使用人だけが、召使いとか、女中と呼ばれた。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第3章お節介で不思議な国・アメリカ
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