トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ アメリカ人とイギリス人の違い
外交評論家 加瀬英明 論集
私はアメリカに留学して以来、アメリカ社会に融け込むことができると思っているが、それでも、アメリカのホテルに泊まると、休まらない。
イギリスの格式あるホテルでは、従業員の躾が素晴らしいが、それと、較べてしまう。
イギリスのホテルでは、老化で従業員とすれ違っても、目を合わせることがない。ルームサービスを頼んでも、ほとんど分からないように入ってきて、飲み物や、料理をセットすると、すぐに出ていく。このあいだに、仕事のうえでの必要最小限の会話しかない。小気味がよいほどだ。
アメリカのホテルでルームサービスを頼もうものなら、ボーイが愛想よく「ハーイ」(こんにちは)とか、「ハウ・アウ・ユ・ドゥイング?」(元気かね?)とか、馴れ馴れしく口をきくものだ。客と従業員が、対等な関係を結んでいるのだ。
客を客と、思っていない。私はイギリスをしばしば訪れて、馴染んでいるから、紹介を受けていない者から、友人扱いされるのは、不快である。
ほんとうのサービスは、サービスをしていることを、客にまったく感じさせないものであるはずだ。与えられた役割だけを、的確に演じることだ。イギリスのホテルや、クラブの従業員は、見事なまでに、その役割に徹している。
もっとも、このような従業員の振る舞いは、代々にわたって召使いを使ってきた、貴族社会の伝統が培ったものだ。そのために、ホテルの従業員も、うやうやしい態度をとるのだ。
ところが、EUが誕生してから、域内の人々が加盟国のあいだを自由に移って、働けるようになったために、高級ホテルや、レストランで、外国人が働いていることが珍しくなくなった。イギリスらしいサービスを受けられないことが、増えるようになっている。
アメリカ人は、つねに自分を売り込まなければならないから、なにごとについても、自己主張が勝っている。そのために、アメリカ人は大袈裟だ。ヨーロッパ人が控え目なのと、対照的だ。
日本では人々が控え目だから、日本からアメリカを訪れると、辟易させられる。
アメリカ人はなにごとについても、「グレイト!」(最高だ!)という叫び声をあげる。だから、私はアメリカに滞在するたびに、くたびれる。
アメリカ人は、初めてあったばかりの者について、「ヒーズ・グレイト!」(彼はものすごくいいヤツだ!)と、決めつける。「ザッツ・グレイト!」、「グレイト・ウェザー!」(最高の天気)、「グレイト・アイディア!」「グレイト・スキーム!」(すごい計画)、「グレイト・レストラン」、「グレイト・フィルム!」(最高の映画だ)といったように、「グレイト」を、乱発する。
たいていの場合、あとで「グレイト」でないことが分かるが、あっけらかんとしている。慎みがなく、大袈裟で、表現が過剰なのだ。
そのかわりに、イギリス人がもっとも頻繁に使う言葉といったら、「ナイス」である。「ナイス・チャップ」(いいヤツ)から、天気、衣服、レストラン、ホテル、車、場所でも、なにについても「ナイス」を用いる。慎重なのだ。
アメリカ人と較べて、控え目なのがよい。あとになって評価が変わったら、改めることができる。イギリスでは「アンダーステイトメント」(抑えた表現)というが、表情や、感情だけではなく、表現も抑えるようにつとめることが、期待されている。
アメリカ人は新世界で、自分しか頼る者がいなかったから、自分を人々に売り込むためには、誇張することが、習い性となった。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第3章お節介で不思議な国・アメリカ
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