トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ それでいて、驚くほどキリスト教に無知な国民
外交評論家 加瀬英明 論集
多くのアメリカ人が日曜日に、近くの教会を訪れて、礼拝に参加する。
「メガチャーチ」(巨大教会)は、マクドナルドや、チェリー(桜んぼう)パイと同じように、アメリカに独特なものだ。週末になると、大きな施設を使って、一度に1万人から3万人の信者が礼拝に参加するために、集まる。
今日、アメリカには、1200以上のメガチャーチが、存在しているといわれる。
都会に住む若者を取り込んだ、”ヒルソング“という名のメガチャーチは、『ニューヨーク・タイムズ』によれば、全米各地で毎週、10万人を超す男女を集めている。1000万人の若者がネットで、参加しているといわれる。
この記事によると、ヒルソングはフォーク・ロックの礼拝歌が、若者たちを陶酔させてきた。これまで、1600万枚以上のCDアルバムが、売れたという。
アメリカで日曜日にテレビをつけると、いくつかのチャンネルで、巨大な会場や、教会において伝道師や、牧師が会衆を前にして、説教したり、礼拝しているところが、延々と放映されている。「エレクトロニクス・チャーチ」と呼ばれているが、いかにもアメリカらしい。
私は10年ほど前に、アメリカの空港で入国管理の係員に、「入国の目的は?」とぶっきら棒にたずねられたので、「説教するため」とひと言で答えた。
私はアメリカの政権や、議会関係者や、研究所の人々に、アジア政策について説くという意味で、そう答えたつもりだった。
すると、係員が牧師だと早合点して、居住まいを正して、敬虔な眼差に変わった。「レベランド」(聖職者の尊称)といって、パスポートにスタンプを押して、返してくれた。
ところが、日曜日が巡ってくるごとに、近くの教会にいそいそと通い、あるいはメガチャーチの集団礼拝に参加するアメリカの善男善女たちと話していると、キリスト教について知識がほとんどないことに、驚かされる。
信仰心が篤いはずのアメリカ人に、イエス・キリストの十二使徒の名前や、「天主の十戒」がいつ、どこで、誰が誰に授けたのか、キリスト教の三大宗派を挙げてほしいといった、ごく基本的なことについて質問しても、満足に答えられない者が、ほとんどだ。
私は高校時代から、西洋人と渡り合うために、旧約聖書と新約聖書を熟読してきた。
「私は日本から来ましたが、ひとつキリスト教について、教えてくれませんか?」といってから質問してみると、喜んで答えてくれるものの、的外れな答えが戻ってくることが、多い。
無知であるほど、信仰心が篤いといわれるが、アメリカ国民は思い込みが激しいことを、あらためて知らされる。
アメリカ人は、アメリカが世界でまったく類例がない万邦無比な国であると、信じて疑わない。
キリスト教に対する態度が、ヨーロッパと何と対称的だろうか。
フランス、ドイツなどのヨーロッパ諸国では、教会で礼拝に参加する人々が、年を追うごとに、減るようになっている。宗教離れが進んでいるために、神父を志すヨーロッパ人が、減っている。
そのために、アフリカ人や、インド人神父の姿が、珍しくなくなっている。
かつて白人がキリスト教の伝道師として、福音を伝えるために、アフリカのジャングルや、アジアの奥地に分け入ったものだったのに、いまでは、アフリカ人や、アジア人が、白人の魂を救うために、ヨーロッパの町や、村まで入り込んで、布教している。
だが、ヨーロッパでは、キリスト教離れが急速に進んでいるものの、キリスト教についてよく知っている。学校教育によって学んでいるからだ。
信仰を捨てた者でも、イエスの十二使徒の名を挙げることができる。「天主の十戒」は、モーゼがエジプトからイスラエルの民を率いて脱出する途中に、シナイ山で主から授かったものであり、キリスト教の三大宗派といえば、カトリック(旧教)、プロテスタント(新教)、ロシア、ギリシア、バルカン諸国などで信仰されているキリスト正教会だと、答えることができる。
カトリックとキリスト正教の違いが、カトリックが、精霊が父神と一体とされているイエスの両者から発していると教えているのに対して、キリスト正教が父神だけのものとしていることも、知っている。
それでも、アメリカほど、キリスト教が力を持っている国はない。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第3章お節介で不思議な国・アメリカ
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