トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ アメリカが生み出した、おぞましい「新しい中東」
外交評論家 加瀬英明 論集
アメリカは二十一世紀に入って、「アメリカ一強時代」を迎えると、イスラム圏において、マホメッドが七世紀にイスラム教を興して以来、民主主義が一度として行なわれたことがなかったのを顧慮することなく、中東の民主化を思い立つようになった。
1991年に、サダム・フセインのイラクが、クウェートを侵略すると、ブッシュ(父)政権がアメリカ軍を中心とした多国籍軍を組織して、クウェートを短時間で解放した。イラク軍は、中東最強の陸軍だといわれたものの、先端技術を駆使するアメリカ軍の前には、まったく無力だった。
アメリカ軍は先端兵器と、情報管理技術を組み合わせた、RMA(レボリューション・イン・ミリタリー・アフェアーズ〈軍事革命〉)を、駆使した。ワシントンは、RMAがそれまでの戦争のありかたを、一変させたといって誇った。
それまで、戦争は機械が主役だったが、RMRによって、ソフトが王者となった。
ブッシュ(父)政権は、クウェートを解放すると、戦争目的を達成したといって、一方的に戦闘を停めた。
フセイン政権に対して不満をいだく、イラク民衆が立ち上がって、政権を倒すことになると期待したのだが、これは大きな誤算だった。フセイン政権はしぶとく生き残った。
アメリカは、世界第四位の規模を持つといわれたイラク陸軍を、粉砕したことによって、軍事力にいっそう自信をいだいた。
そして、その10年後に、ブッシュ(子)政権がアフガニスタンを侵攻して、瞬く間にタリバン政権を倒したことで、さらに自信を深め、中東を民主化しようとする使命感をいだくようになった。
1991年のブッシュ(父)政権によるクウェート解法作戦は、「オペレーション・デザート・ストーム(砂漠の嵐作戦)」と、呼ばれた。
その後のブッシュ(子)政権によるアフガニスタン侵攻は、「エンデュアリング・フリーダム(永遠の自由)作戦」、2003年にフセイン政権を倒した侵攻作戦は、「イラク・フリーダム(イラクの自由)作戦」と、命名された。二つの作戦名が、ワシントンの使命感と、意気込みを物語っている。
ブッシュ(子)大統領は、「イラク・フリーダム作戦」が終わると、この年5月1日に、空から原子力空母『アブラハム・リンカーン』の飛行甲板に降り立って、「使命を完遂した」と書かれた大きな横幕の前に立ち、「われわれは、新しい時代をひらいた」と、自信を漲らせながら、意気揚々と宣言した。
アメリカでは、アフガニスタンとイラクを短期間に制圧したことによって、「新しい中東が生まれる」と、囃し立てられた。
だが、それから10年もたたないうちに、まったく違った、おぞましい「新しい中東」が生まれてしまった。
アメリカは第二次大戦後、冷戦下において、トルーマン政権の朝鮮戦争、ケネディ政権によるベトナム戦争から、レーガン政権によるレバノン派兵までは、自由世界を守ることが、アメリカを守ることになると信じて、軍事介入した。
北朝鮮と、北ベトナムの背後には、ソ連が控えていたから、北朝鮮軍や、ベトコンをソ連の代理兵とみなした。
ところが、ソ連が崩壊した後は、アメリカは人道主義を振り翳し、正義感に駆られて、海外に武力を用いて、しばしば介入するようになった。
アメリカは全世界を、アメリカ化しようとするのだ。
「ユートピア」は、十四、五世紀にかけて生きた、イギリスの人文学者のトマス・モアの有名な造語であるが、どこにも存在しない、想像上の理想社会のことだ。
アメリカのユートピア願望は、新天地を求めて、清教徒がアメリカ東海岸に上陸した時に始まった。新大陸は新約聖書に書かれている、神に捧げられた輝かしい「丘の上の都」を、建設すべき地だった。
今日でも、アメリカを築いた清教徒たちは、「父祖である巡礼者」として、敬われている。アメリカが世界で、ただ一つの「神に選ばれた国」であると、いまでも信じられている。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第4章アメリカが目茶目茶にした中東の10年
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