トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 5年後、10年後に予想される中東の大変貌
外交評論家 加瀬英明 論集
しかし、アフガニスタンの「エンデュアリング・フリーダム作戦」と、イラクの「イラク・フリーダム作戦」が行なわれた後に、中東はどうなっただろうか。新しい中東に生まれ変わって、民主主義が「永続する」はずだったのに、数年ももたなかった。
それから10年たって、ワシントンが中東にもたらそうとして、夢想した「新しい時代」とまったく違った、「新しい中東」を招き寄せてしまった。
もし、ブッシュ(子)政権がイラクのフセイン政権を、オバマ政権がリビアのカダフィ政権と、エジプトのムバラク政権を倒すことがなかったとしたら、中東が今日のような大混乱に陥ることはなかったはずである。
今日の中東の地図は、先にも述べたように、オスマン・トルコ帝国が第一次大戦に敗れた後に、イギリスがイラク、フランスがシリアというように、ヨーロッパ列強が、中東を手前勝手に分割して、線引きしたことによる。
フランスはシリアに対する権利を要求したが、中世に十字軍に加わったフランス騎士団の廃城があることを、根拠としたものだった。
中東の地図を拡げると、国境線が直線に引かれている。ヨーロッパで列強の代表が集まって、現地の宗教、宗派、歴史、部族などの事情にまったく顧慮することなく、地図のうえに文字通り定規を当てて、境界線を決定したのだった。
私はアメリカが中東の秩序を壊したために、リビア、イラク、シリア、イエメンをはじめとする諸国が、宗派や、民族や、部族によって解体して、新しい地図が現われると、予想している。
中東がメルトダウンしてゆく結果として、リビアが二つか三つ、イラクがスンニー派、シーア派、クルド族の三つ、シリアも三つに分かれよう。サウジアラビアは、スンニー派のなかで、もっとも純粋なワハーブ派を信奉しているが、産油地域をシーア派住民が占めているから、二つに分裂するかもしれない。
シーアスタンとか、サウジアラビアの超保守的なワハーブ派によるワハビスタン、クルド族によるクルディスタン、タリバニスタンといった国々が、生まれるのではないか。
地図の出版社にとっては嬉しい話だろうが、その過程のなかで、中東がさらに大きく揺れることになろう。
『土侯が去る 湾岸王制諸国の迫りつつある倒壊』(オクスフォード大学出版局)という近刊が、アラビア半島の産油諸国が5年以内に混乱に陥り、崩壊すると予想している。私は10年以内というのなら、頷こう。
日本は、中東にエネルギーを依存している。こんな時に、日本国民が“脱原発”の呑気節を歌っていて、よいのだろうか。
アメリカはユートピアイズムに駆られて、ブッシュ(子)政権で、イラクに1兆ドル(約110兆円)といわれる巨費を投じて、軍事介入したために、大火傷を負ってしまった。
もっとも、オバマ上院議員(当時)も、ヒラリー・クリントン上院議員も、他の共和、民主両党の上下院議員とともに、ブッシュ(子)大統領のイラク侵攻作戦を支持したから、批判することができないでいる。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第4章アメリカが目茶目茶にした中東の10年
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