トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 中国に靡くアメリカ、アメリカを取り込む中国
外交評論家 加瀬英明 論集
つい1年前まで、ワシントンは中国の目覚ましい経済興隆によって、すっかり眩惑されてしまっていた。中国が放つ光のなかで、日本の存在が見えなくなっていた。
いまでも、中国経済が今後も巨大化してゆき、日本が力を衰えさせてゆくという見方が、政権、議会、シンクタンク、マスコミによって、共有されている。
2013年に中国の世界貿易総額が、4兆1600万ドルに達し、アメリカの4兆ドル弱を上回って、はじめて世界一となった。
アメリカは8年前までは、127カ国にとって最大の貿易相手だったが、2013年に76カ国に減り、中国がアメリカの座を奪って、124カ国にとって最大の貿易相手となった。8年前をとると、中国を最大の貿易相手としていた国は、70カ国だった。
アメリカは、中国に靡いていた。アメリカのテレビ、新聞などに、中国が取り上げられない日はないが、日本の記事は少ない。
中国は豊富な資金を使って、アメリカのマスコミ、シンクタンク、大学を取り込んでいる。
中国はアメリカを、金漬けにしている。ワシントンが、まるで中華料理に欠かせない、搾菜となったようだった。
首都の最有力紙である『ワシントン・ポスト』には、毎朝、中国共産党中央宣伝部が発行している英語紙である『チャイナ・デイリー』が、添えられている。『ニューヨーク・タイムズ』も、中国紙が抱き合わされている。テレビには、中国専門のチャンネルもある。
どうして、アメリカは日本よりも、中国に魅せられるのだろうか?
2013年12月に、中国が尖閣諸島の上に、防空識別圏を一方的に設定した直後に、アメリカは中国の好意を受け容れられないといって、形だけ反発した。アメリカのマスコミも、中国を強く非難することがなかった。
ワシントンは、日本を甘く見るようになっていた。
以前なら、中国が挑発的な行動をとると、アメリカ上院外交委員会が、ただちに中国の暴挙について、公聴会を開いた。今回は、議会においてそのような動きが、まったくなかった。
中国が1996年に、台湾に対して露骨な威嚇を加えた時には、アメリカ議会で台湾の国連加盟について、公聴会が催された。国務省が強く反対したために実現しなかったが、そのなかに、「チベットを外国の占領下にある独立国として、承認するべきだ」という項目もあった。
今では、台湾擁護派の議員は、すっかり影をひそめている。台湾は、もはやお呼びではないのだ。
アメリカは日本について、日本を占領して以来、よく知っていると思っているが、中国は巨大な未知の国であるうえ、急成長する経済に目を見張ってきた。
それに、中国が毎日、国外で動かしている資金は、莫大なものだ。
アメリカ国民は清朝末期から、中国に見果てぬロマンチックな夢を、描いてきた。今日でも、この夢はアメリカ人の心のなかで、生きている。
アメリカはどの国よりも商売熱心であり、通商を拡大することを、つねに求めてきた。
大型帆船が太平洋を渡って、清国に航路を開くと、3億人(1800年の推定)の市場に、憧れた。日本は小さな島国で、基地として使えたが、市場は期待できなかった。
ペリーが来航した時に要求したのは、日本沿岸で操業する捕鯨船に、水や薪を供給することだった。
中国は神が与え給うた、巨大な未開拓の市場として、みられた。
19世紀に入った時に、インドも2億人の人口を擁していた。しかし、インドはイギリスの植民地で、アメリカが手を出すことができなかったが、中国はほとんど手付かずの処女地だった。
それに、中国をキリスト教化する夢を、描いた。中国人は次々とキリスト教に、入信した。中国はキリスト教宣教師にとって、草刈場だった。
ところが、日本人は宣教師が献身的な努力を注いだのにもかかわらず、イエス・キリストが手を差し伸べても、救われようとすることもなく、キリストの愛によって改宗することを、拒んだ。
日本人は太陽や、山や、巨木や、動物を拝む、未開な宗教を信じ続けた。
そのために、アメリカ人は日本に好意をいだくことが、できなかった。
アメリカの都会や、郊外のどこへ行っても、第一次大戦以前から、中国料理店があって、近所の食堂として親しまれて、日常生活のなかに融け込んでいた。
日本食が一般化するようになったのは、この30年あまりのことだろう。中華料理が全国民に親しまれてきたのに対して、いまでも日本料理は、中産階級以上の人々のものである。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第5章中国に眩惑されたアメリカ
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