トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 従軍慰安婦問題の元凶
外交評論家 加瀬英明 論集
私はいくつかの内閣で、アメリカを相手にして外交の第一線に立った。
外交で一つ、心すべきことがある。英語で「ミラー・イメージ」というが、鏡で自分の姿を見るように、相手国も自分と同じような価値観や、感性を持って行動するはずだと思い込む罠に、陥りやすいことだ。
もちろん、これは、どの外国についてもあてはまる。
中国、韓国は、日本のすぐ隣にあるというのに、日本ときわめて異質な文化を持っている。この二つの国と較べれば、アメリカや、ヨーロッパ文化のほうが、日本とのあいだに共通点が多い。
「日中友好」「日韓親善」を口にするだけなら、実害をともなわないから構わないが、毅然たる態度をとるべきところを、同じ人間だからといって、警戒心を解いてしまうと、今日の日中、日韓関係のように、大火傷をすることになる。
中国、韓国では、王朝が暴力によって、しばしば交替した。どの王朝も権力を私して、人民を恣に搾取、収奪したから、民衆は自分の身を守るために、信じ合うことがなく、自己中心的にならざるをえなかった。
中国、朝鮮半島では、和の心も、公徳心も育ちようがなかった。そのため、生きるうえでの嘘も、盗みも正当化された。
日本が天災の国であるならば、中国、韓国は絶え間ない、人災の国であってきた。
ヨーロッパの国々も、抗争が絶えることがなかったから、日本民族の歴史的な体験と、大きく隔たっている。日本の和の心が、通じようがない。
ヨーロッパも、ヨーロッパから出てきたアメリカも、ヨーロッパ人のDNA(遺伝子)を受け継いでいるから、中韓両国とあまり変わらない、過去を持っている。
アメリカは原住民を大量に殺戮し、米西戦争によってフィリピンを占領した時には、スペインの統治から解放されて、独立を求めて立ち上がったフィリピン島民数十万人を、虐殺している。
ところが、アメリカ人も、ヨーロッパ人も、中国人も、日本人が自分たちと変わらないような歴史と、過去を持っているはずだと、思い込んでいる。
いま、日本は「性奴隷」という、いわれのない慰安婦問題によって、アメリカだけでなく、世界から不名誉きわまりない汚名を、着せられている。
この原因は、1993(平成5)年に慰安婦について謝罪した、河野官房長官談話がつくった。
河野談話は、日本統治下の朝鮮半島で、旧日本軍が一般の子女を拉致して慰安婦となることを強制したという、朝日新聞の報道キャンペーンに乗せられたものだった。そのうえ、政府が基金を創立して、元慰安婦たちに補償まで行なった。
私と親しいアメリカの高官が、「有史以来、東西を問わず、戦場と兵士の性処理はつきものだった。それなのに、日本政府は人類史上で、はじめて謝罪した。そのうえ、補償する基金まで設立した」「世界から、よほど悪いことをしたにちがいないと思われても、仕方ないだろう」と、言った。
日本人は、すぐに詫びる。たとえば、昼食か、夕食のために会うと、約束したとしよう。
その時間よりも10分前に、店に着いたところ、他の人々がすでに全員集っていた。すると、日本人は、約束した時間に遅れたわけではないのに、「いやあ、申し訳ありません」とか、「すいません」といって詫びる。
西洋人には、約束の時間通りに着いたというのに、なぜ、日本人が、「アイ・アム・ソーリー」といって詫びるのか、まったく理解することができない。
日本政府は、何と間抜けだったのだろうか。日本では和を保つために、簡単に詫びあうのは普通だが、相手が日本人でない時に、謝罪して、そのうえ補償までしたら、世界がどのように受け取ることになるか、考えなかったのだ。
私はワシントンの著名な研究所の幹部に、「もし、日本があなたの研究所に100万ドルか、200万ドル(1億円か、2億円)を出して、日本の研究機関と慰安婦について共同研究を委託したら、どうだろうか」と、試しに持ちかけてみたことがある。
アメリカでは研究所をはじめとして、何であれ、金で買えるはずなのに、どのシンクタンクの幹部も、「慰安婦問題はホロコースト(ナチスによるユダヤ虐殺)と同じように、動かせない事実として、受け入れられている。私たちには、触れることができない」といって、断わられた。
だが、旧日本軍の慰安婦は、強制的に拉致されたのではなく、売春を生業としていた女性だった。
当時、売春は、日本でも、中国、ヨーロッパ、アメリカでも合法であり、公認されていた。
アメリカ兵がベトナム戦争中、100万人以上の「アメラジアン」と呼ばれる、混血児をベトナムに残したために、1982年にアメリカ議会が救済するために、混血児が望めば、入国ビザを発給するという立法を行なった。韓国軍もベトナムで、3万人にのぼる「ライダイハン」と呼ばれる混血児を、のこした。
前大戦中に、アジアから太平洋までひろがる広大な戦域で、日本兵が現地の女性に産ませた混血児は、ほとんどいない。
慰安婦は売春を職業とする女性たちが、より高い収入を求めて、業者によって連れられて、戦地において営業していたという、それだけのことだった。
もし、河野官房長官談話がなかったとしたら、今日のように慰安婦問題が世界にひろがることはなかった。
そのうえ、その後の歴代の内閣が、河野談話を否定していない。
ワシントンの研究所の幹部が、私に「その後、日本政府が河野談話を取り消さないのは、日本がもっと悪いことを、まだ隠しているにちがいないと、思われている」と、語った。
そのために、いまわしい病根が、世界にわたって、日ごとに深まるようになっている。
ところが、オバマ政権は日本が不必要に韓国を刺激することを恐れて、日本政府に河野談話を否定することを控えるように、圧力を加えてきた。
ここでも、アメリカ人から見て、日本も自分たちと変わらない歴史を、持っているはずだと思い込んでいる「ミラー・イメージ」が、働いている。このために、日本は誤解されている。
日本は歴史を通じて、奴隷がいなかった、珍しい文化だった。
日本の戦争文化は、中国や、ヨーロッパをはじめとする諸国と、異なっていた。
日本では戦いは、武士と兵卒だけが戦った。一般住民まで、殺すことがなかった。敗者の女性を手当たり次第に、強姦することもなかった。
日本の歴史では、ヨーロッパや、中国のように、都市ぐるみの大虐殺が行なわれたことが、一度もなかった。日本は優しい、和の文化である。
城攻めでは、城主一人が腹を切れば、家臣や、城兵はもちろん、女子供の生命を奪うことも、ほとんどなかった。
西洋史や、中国史では、しばしば大量虐殺が行なわれた。南京、北京や、パリ、ベルリンなどの、中国や、ヨーロッパの都市は、高い城壁によって四周を守られており、敵によって攻略されると、なかの民衆が掠奪されたうえで、老人から女性子供まで、虐殺された。
日本では宗教対立や、抗争がなかったから、拝む神や、宗派が違うからといって、殺戮することがなかった。
中世ヨーロッパの宗教異端裁判では、30万人以上が火焙り刑によって、虐殺された。
秀吉は、キリシタンの宣教師をはじめは歓迎したが、宣教師たちが日本の信者を煽って、神社仏閣を破壊し、神官や、僧侶に暴行を加え、日本の男女を奴隷として、国外に売ったために、キリスト教を禁じて、宣教師や、信者を捕えて、処刑した。
しかし、キリシタン信者の処刑数は、合計して、わずか4000人あまりだった。
踏み絵することによって、棄教したと認められた者は釈放されて、いっさいお咎めがなかった。
これは、ヨーロッパの宗教戦争や、宗教裁判が数十万人の人命を奪ったのと、対照的である。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第6章日本は、なぜ誤解され続けるのか
バックナンバー
新着ニュース
- 島耕作、50年目の慶事が台無しに(2024年11月24日)
- 第31回さいたま太鼓エキスパート2024(2024年11月03日)
- 突然の閉店に驚きの声 スイートバジル(2024年11月19日)
- すぐに遂落した玉木さんの質(2024年11月14日)
特別企画PR