トップページ ≫ 文芸広場 ≫ たぁ坊のひとりごと。「親子大移動」
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夏休みに入り電車内で子どもたちの姿をみかけることが増えた。
夏休みにしか出来ない、いろいろな経験をさせてあげようと奮闘中の親御さんも多いことだろう。
母一人で男の子3人を連れ、電車に乗る親子に出くわした。母は少し大きめのバッグを肩から掛けていた。ラッシュの時間だったためドア近くでは危ないと電車の中の方へと進む。
座っていた男性が目を細め、席を譲る。一つでは足りないだろうとその隣の人も席を譲り2人分の席が空き、子どもたちの隣に母を座らせてあげるために更に隣の人も快く席を譲った。兄が「ありがとうございます」とお辞儀をして座り、慌てて次男が「ありがとうございます」と兄を見習い真似る。三男も「ありまとございます」とたどたどしく言う。兄達の真似をしている幼い弟の行動は車内の人を和ませた。その横に申し訳なさそうお礼を言い、母がちょこっと座った。
小学生の低学年の兄達と幼稚園くらいの弟。「連れて歩くのも一苦労、次はこの混んでいる電車からどうやって子どもたちを降ろすのだろう」と不安がよぎる。小学生を降ろすのも大変なのに・・・
その時間はすぐにやってきた。
母親は「次降りるからね」と子どもたちに言い、膝においていた荷物を強く握った。三男はだっこされるのかと思いきやその様子はまったく無かった。電車が停まると、母は「降ります」と言いホームに向かって歩きはじめた。母の後ろに兄がついていき兄の後ろに次男と三男が続いた。どうやら順番も決まっているようだ。
母が電車から降りながら振り向き、兄に「電車とホームの間があいてるからね」という。兄は電車とホームの間をピョンと飛び越え、振り向いて次男に「電車とホームの間があいてるからね」という。次男も振り向き三男に「電車とホームの間があいてるからね」と伝え、三男もピョンと飛び越え、振り向いて「電車とホームの間があいてるからね」と誰に言うわけでもなく言葉だけを残し、兄達の後について人ごみに消えて行ってしまった。
親子の大移動はお見事だった。わずかな時間の一家の行動に魅せられていた人は多かった。ドア脇に立っていた男子学生が「俺も後をついて飛んで降りたくなっちゃったよ」とつぶやいた。車内に笑いが起こった。
ラッシュ時の重く張りつめた車内の空気はとっくにどこかに飛んで行ってしまっていた。
素敵な夏休みのひと時だった。
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