コラム …男の珈琲タイム
台風が荒れ狂った。ゲリラ豪雨が各所で暴れた。
外に出られず、私はテレビに釘づけになっていた。画面に増水し氾濫した霞川が表われ、その画像はかなりの時間を費やしながら我々にある種の恐怖感を与え続けた。小さな川である。一級河川とは名ばかりだと、昔から流域の人達は言っていた。
私は少年期を霞川と共に過ごした。小魚がたくさんいた。アヒルが退屈そうに昼寝をしていた。霞川は全長約16kmの川で源は青梅市の小さな池の湧水だ。青梅市、入間市、狭山市と蛇行し、末は入間川に合流する。そして荒川となって東京湾に旅立っていく。特に、青梅市、入間市あたりの風景は、林あり、野あり、桜あり、少年達の遊びの場でもあった。霞橋という石の橋があって、私達はその橋を渡って学校に通った。行き交う人は格好のいい大学生、憧れを抱いていた女学生、いそいそと家路を急ぐサラリーマン等々、見栄えのする絵図でもあった。私にとって霞川は思い出満ちあふれた川だった。どんな嵐にも狂ったことはなかった。しかし、都市化が進み、コンクリートが霞川を囲うと川は急流になり、逃げ場を失って狂流になり氾濫の川となった。私の心に焼き付いて離れない一枚の絵図は無惨に破れ、無常と無情が重なって悲しかった。私は昔の幼なじみに電話をした。霞川の思い出を語り合った。友も私と同じ心で嘆いていた。文明は都市化という仮面を被る。しかし、再びは昔にかえることはない。霞川…思い出はかえらぬ~♫ 遠い仙台市の広瀬川旅情を口ずさみながら重い心をなぐさめた。そしておもった。あの霞橋を渡っていた人達は今どうしているだろうか?再びは渡れなくなってしまった人。渡ったのを最後として二度と帰らなくなってしまった人。あの友。あの人。
私の父も母も姉も不帰の人となった。それこそはるかに遠い霞の彼方の人となってしまっていた。
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