何か忘れものをしたような気がして

振り返ることがある

誰も居ない秋の林の中で

空に近い梢の方から

しきりに鳥の声が聞こえてくる

夢の中で分かっていた言葉だが

今はまるで意味が分からない

大切なことだったのに

遠回りして月の道を帰ってきたが

思い出せない

何か渡すものがあった

何か伝えるものがあった

何か聞いておくことがあった

再び逢う人ではないけれど

今からでも　いいたい　ゴメンなさい

約束の時間に遅れたけど私は行った

それはあの夜の月だけが知っている

私が悪かった

でも一つだけ違うことがある

忘れ物　それが何であったか

私がしなければいけなかったこと

私がしてはいけなかったこと

やがて私がこの世界を通り過ぎる時

この世界が終る時

それは指先のトンボが私に語りかけるだろう

大畑　ヨシオ