文芸広場
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知らなかった。歌手にお札のおひねりを差し出す時には、割り箸に挟むのか。
先日、友人が歌う食事会に行くから一緒に行こうとあるひとに誘われ、出掛けた。どんな歌を歌う友人なのかもよくわからず行ったが、その方は、演歌歌手デビュー5周年だそうで、記念のディナーパーティーの場だった。主役の5周年歌手以外にもゲストが出演し、3時間のパーティーは盛りだくさんだった。
舞台上の歌手には客席からおひねりが差し出される。お札を割り箸に挟んで出すものらしい。同じテーブルで隣に座る方もおひねりを準備しているが、お札を挟むのに適当な新しい割り箸がないと困っていたので、走って新しい割り箸を取ってきた。おひねりのために走る自分が面白い。
普段、演歌を聴くことはないが、このようなパーティー会場で聴くのは新鮮だ。歌手が舞台上にきらびやかな衣装で次々に現れる。まぶしい。誰ひとり、知っている歌手はいないのだが、さすが歌でお金を稼いでいるだけに堂々とした歌いっぷり。
なかでも印象に残ったのは、高齢の男性歌手。売れていないというのを自虐ネタにして笑わせている。そして、前歯も先日取れてしまったそうだが、歯がなくても滑舌よろしく太い声で歌いあげる。この道何十年もの重みあり。
会が終って会場から出ると、出演歌手のうちのひとりは新曲のCDを自ら売っていた。その歌手は、パーティーではムード歌謡を歌っていた。小学生の頃よりムード歌謡ばかり歌う変な子どもだったと自己紹介していた。
好きなことを仕事にして食べてゆくのも楽ではないと思う。高齢男性歌手は、売れていないと言っていたし、舞台に立つ日に前歯を間に合わせられないのも売れていない証拠なのかなと、失礼ながら思ってしまった。
テレビや舞台に出て、広く知られている歌手は本当にひと握り。売れていない立場の方が圧倒的に多い世界。でも、歌を聴きながら、歌い手の歌への情熱が伝わってきて、好きなことを続けている姿を観ることでエネルギーを分けてもらったような気になった。
カッコつけずにありのまま、ただひたすらに歌う姿はカッコイイ。
鼻歌を歌いながら、足取り軽く帰途に就いた。
檀 ままこ
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